ワンプロダクトからAIロールアップへ。「Next SaaS」の最適解を示す、現場とテクノロジーの融合戦略【株式会社クアンド 代表取締役社長:下岡純一郎氏】

職人の高齢化と若手の担い手不足により、インフラ維持の危機に直面する「地方の建設業」。このレガシー産業に対し、単なるSaaSの提供に留まらず、地域企業とのグループ経営を通じて、テクノロジーと現場の知見を融合させる「AIロールアップ」で変革に挑むのが株式会社クアンドである。 

今回は代表の下岡氏にインタビューを敢行。外資系メーカーや大手コンサルティングファームでのエリートキャリアを捨てて起業に至った原体験から「Next SaaS」とも呼ばれる革新的なビジネスモデル、そして不確実な時代を勝ち抜くための組織づくりまで伺った。

【Profile】

株式会社クアンド 代表取締役社長:下岡純一郎氏

1986年北九州市生まれ。九州大学理学部、京都大学大学院人間・環境学研究科卒。P&G、博報堂コンサルティングを経て2017年に株式会社クアンドを創業。家業である株式会社瀬登(設備工事業)取締役も兼任。

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目次

現場で育った起業家が直面したフレームワークの限界

—— まずは現在の事業につながる「原体験」を教えてください。

下岡:実家は祖父の代から北九州で続く建設会社です。自宅から数百メートル離れた場所にあり、授業が終わるとまずは会社へ直行し、ランドセルを下ろして遊ぶような子ども時代を送りました。建設現場で働く人たちや資材が積まれた風景が日常で、現場の空気感は幼い頃から自然と肌に染み付いていました。

—— 当時から建設業を継ぐ意識はお持ちだったのですか。

下岡:いえ、父から「建設業なんて継ぐものじゃない」と言われていたため、まったく別の道に進むつもりでした。転機が訪れたのは九州大学に進学した後のこと。当時の九州の大学では、就活時期になると「某重工企業は初任給いくら」という求人が貼り出されます。どの推薦枠をもらい、大きくて安定した企業に入るか。それこそが正解だと信じて疑いませんでした。しかしその掲示板で「大学費用負担でアメリカに行ける」プログラムを見つけたのです。

—— そのプログラムでのシリコンバレー体験が、起業を志す原点になったのですね。 

下岡:おっしゃる通りです。それはナスダック上場を果たした九大OB、ロバート・ファン氏が「日本の若者の起業家精神を育てるため」に私財を投じた派遣プログラムでした。

大学4年時に参加して衝撃を受けたのは、現地で出会った大人たちが皆「自分はこうしたい」という明確な軸を持ち、心から楽しそうに仕事をしていたことです。それまでの私は、学業でいえば偏差値、スポーツなら大会実績のような決められた階段を上ることだけを是として生きてきました。しかし彼らの姿を目の当たりにし「こういう大人になりたい」と強く憧れたのです。これが私の起業への思いの原点です。

—— しかし、すぐには起業しませんでしたね。

下岡:当時の私には事業アイデアもスキルもありません。そこで大学院進学を経てP&Gに入社します。事業家としてのスキルや優れた仕組みを学ぶ上で最適だったからです。P&Gでは生産管理やロジスティクスの部門に配属され、入社2年目にはイタリアで紙おむつの生産ラインを立ち上げるプロジェクトにも参加しました。

—— その後、博報堂コンサルティングへ転職された理由は?

下岡:P&Gは職種別採用のため、社内異動で生産や物流からマーケティングや営業といった「モノを売る側」へ移るのが非常に困難でした。モノを作る・運ぶ仕組みは理解できたので、次は売る側を知りたかったのです。博報堂コンサルティングはクライアント企業のトップラインをいかに伸ばすかに特化しており、営業戦略やマーケティングを短期間で学べると考えました。

転職後、狙い通り知識は広がりましたが、同時に大きな壁にもぶつかりました。当時の私は経営を学校の勉強のように捉え、ファイナンスやマーケティングなどのスキルを一つずつ身につければ優れた起業家になれると信じていました。ですが、事業を立ち上げる上で本当に重要なのは、知識の網羅ではなく「想い」や「リスクを取って挑戦する姿勢」なのだと気づいたのです。

—— 知識を蓄えるよりも、実践へ飛び込むことを選んだと。

下岡:P&G時代に先輩から言われた言葉の意味を、その時ようやく理解できました。「君は起業するらしいが、きっと苦労する。なぜならこの会社は人が失敗しないように、あらゆるフレームワークや仕組みを用意しているからだ」と。失敗を回避する知識が身に染み付いた状態では、不確実な起業の世界では通用しません。その事実に気づけたことが、大きな転換点となりました。

SaaSの限界とAIロールアップ。現場を変える真のソリューションとは

—— 創業当初はどのような事業を展開されていたのですか。

下岡:明確なビジネスモデルがあったわけではなく、「地方にあるレガシーな産業を、テクノロジーの力でアップデートしていく。そんな仕事がしたい」という想いで東京からUターン起業しました。

私の地元・北九州の八幡は、かつて日本の近代産業を牽引した地。にもかかわらず世の中がデジタルサービスに沸く中で、製造や建設の働き方はまったく変わっていませんでした。ここを変えなければ日本のマジョリティは良くならないと考え、まずは地方企業へのデジタルコンサルや受託開発からスタートしました。

—— その後、自社プロダクトの開発へと舵を切られます。

下岡:なかなか業績が伸びず、父の建設会社を手伝いながらなんとか収入を確保する綱渡りの日々でした。ただ、その現場に入り込んだことが大きな発見につながります。技術者たちの働き方を間近で観察していると、電話対応と現場間の移動に膨大な時間を奪われていることが分かったのです。この無駄をなくすため、現場監督が遠隔で複数の現場を支援・管理できる『SynQ Remoto(シンクリモート)』を開発しました。これが現在のメインプロダクトとなります。

—— 現場発のSaaSを約3年展開する中で、見えてきた課題は何でしたか。 

下岡:ツールの導入で「特定の業務」は確かに効率化されました。しかしレガシー産業全体を変えようとする視点で見ると、外側からツールを提供するだけでは変革できる範囲に限界があると感じるようになりました。

SaaSは一つのプロダクトを何百社にも販売するモデルです。莫大な資金をマーケティングに投下し、ひたすら導入社数を増やすのが正解とされます。しかし建設業は1社ごとに課題が異なります。一つひとつの業務を効率化するだけでは、産業全体の構造は変わらない。もっと根本的な課題に向き合わなければ、本質的なアップデートにはつながらないと感じました。

—— ツール提供だけでは真の変革は起こせないと。

下岡:産業が変わらない根本原因は「ツールがないこと」ではなく「ツールを使いこなし、業務プロセスを変革する力がないこと」です。そこでCFOと議論を重ね、M&Aで自ら建設会社の現場や経営に入り込み、その中でテクノロジーを実装するというアプローチに行き着きました。AIロールアップという手法です。

—— 2024年12月に宮崎県の建設会社を買収されました。その後の成果は。

下岡:買収から約1年半で売上は約1.6倍、利益は約3倍に成長しました。我々自身が経営内部に入り込み、業務プロセスをすべて洗い出すことから着手。既存テクノロジーで代替できる部分は置き換え、足りないものは自社で開発するFDE、つまり現場に入りこむエンジニアリングを実践したのです。テクノロジーと適切なオペレーションを掛け合わせれば、生産性は劇的に向上すると証明できました。

——SaaS事業を展開するなかで、なぜM&Aにも取り組むようになったのでしょうか?

下岡:九州に拠点を置いていることが、良い意味で作用しました。いわゆるSaaSのセオリーに縛られず、産業はどうあるべきかという本質に向き合う土壌があったからです。SaaSによる現場の課題解決は、これからも重要な事業の柱であり、M&Aはその可能性をさらに広げるための新たなアプローチです。AIの進化によってテクノロジーがますます身近になるこれからの時代、真に価値を持つのは「誰よりも現場を熟知し、お客様の行動変容を起こせること」です。自ら実業の現場を持ち、現場で培った知見をプロダクトに還元し、テクノロジーを現場に実装する。この両輪を持つことこそが、これからのクアンドの強みになると確信しています。

IT業×建設業の掛け合わせが生む、自律分散型の組織カルチャー

—— 下岡さんが日々の仕事において、最も大切にしている哲学は何でしょうか。

下岡:徹底して「現場を見に行くこと」、つまり一次情報を取りに行くことです。製造や建設業では、データだけを見ていると本質を見誤ります。工場の稼働率などの数字は、現場の計上ルールや工夫次第でいくらでも「良く見せる」調整ができてしまう。経営者はその数字を見て満足しがちですが、実際に行ってみると実態は何も変わっていないことがよくあるのです。だからこそ頭で理解した気にならず、自ら足を運び、汗をかいて一次情報を掴み取ることを何より重視しています。

—— クアンドの組織体制とカルチャーを教えてください。

下岡:現在は正社員・業務委託を合わせて30名弱ですが、手前味噌ながら本当に「いい人」が多い組織です。私たちはレガシー産業の現場の方々と密接に関わるため、いくら能力が高くても高圧的な人は合いません。誠実さや人間的魅力が不可欠なのです。 また、組織は非常に「自律分散的」です。決められたKPIを機械のように追うのではなく、不確実な方向へ向かって全員で模索するフェーズです。上からの指示を待つのではなく、ミッション達成のために自ら考え、暗闇の中を手探りでダッシュできる人材が集まっています。

—— メンバーの自発性を象徴するようなエピソードはありますか。

下岡:役割や役職に縛られない柔軟さがありますね。M&A先の宮崎の企業でPMIを担当しているメンバーも最初はエンジニアとして入社したのですが、プロダクトマネージャーを経た後、自らの志願で現場に飛び込んでいきました。

—— 会社が掲げるビジョンへの共感が、柔軟なキャリアを後押ししているように感じます。

下岡:そうですね。全員が「こういう世界をつくりたい」という想いを共有しているからこそ、職種や肩書に拘泥することなく自由な発想で動けているんだと思います。

そして私たちの根底にあるのが「眠れる力を、進化の力に、変えていく」というパーパスです。地方の企業やレガシー産業には、まだ発揮されていない価値のある力が眠っています。それが新しいテクノロジーや人材と出会うことで目を覚まし、劇的な変化を遂げていく。そのプロセスを生み出すことこそが私たちの使命だと考えています。

—— IT業であり建設業でもあることも、パーパスにつながっているのでしょうか。

下岡:もちろんです。よく「御社は建設業ですか、IT業ですか」と聞かれますが、私はその問い自体がナンセンスだと思っています。例えば「EC事業は小売業ですか、IT業ですか」と聞かれたら「小売業でありIT業である」と答えるはずです。インターネットという技術が登場した時、最も相性が良かった小売や広告の領域で新しい産業の形が生まれたわけです。

—— 物理的な制約が強かった建設業でも同じ変革が起きようとしていると。

下岡:まさしく生成AIの進化がトリガーとなります。建設のプロセスをデジタルやAIが構築し、人間がそれをサポートするような未来はもはや絵空事ではありません。だからこそ、私たちはIT業であり建設業でもあるという新しいプレイヤーの姿を目指しているのです。極端に異なる背景を持つ「昔ながらの建設業の職人」と「最新テクノロジーを操る若者」が出会うことで起こる化学反応。それこそが、私たちが組織として最も面白いと感じ、豊かさを生み出す源泉だと信じています。

Next SaaSの最前線。実業×テクノロジーで描く日本インフラの未来

—— Professional Studioとの出会いは何がきっかけだったのでしょうか。

下岡:約5年前ですね。当時の私たちは九州のスタートアップということもあり、SaaSやソフトウェアビジネスに関する最先端の知見が不足していました。そこで、この領域に強い『ALL STAR SAAS FUND』から出資を受け、支援をお願いしたのです。その一環で採用についての悩みも担当の方に相談したところ「それなら」とご紹介いただいたのが最初のきっかけです。

—— 市川さんから見て、当時のクアンドさんの印象はどのようなものでしたか。

Professional Studio市川(以下市川):率直に申し上げると、当時は「数あるバーティカルSaaS企業の中の1社」という認識でした。しかし劇的に印象が変わったのがAIロールアップのニュースです。下岡さんが書かれたnoteの記事内に、M&A先の企業の社長とのオンライン画面のスクリーンショットを見つけた時、「なんてユニークな動きをしているんだ」と驚いたのを覚えています。

—— 自ら実業に乗り出した独自性は、採用においても大きな強みになりそうですね。 

市川:間違いありません。現在SaaS業界も投資対効果を厳しく問われ、「ツールを入れて便利になった気はするが、結局アウトカムは変わったのか?」という壁に直面していると感じています。そんな中、自ら実業に入り込んで圧倒的な結果を出してみせたクアンドさんは、SaaSの次なる進化における一つの最適解です。
直近でもスタートアップでの役員経験があり、他社から好条件のオファーを受けていた優秀な方が「クアンド一択」で入社を決めました。経験豊富な人材ほど、大企業の安定や見慣れたスタートアップの繰り返しではなく、実業とテクノロジーが融合した唯一無二のポジションに圧倒的な魅力を感じているのです。

—— 下岡さんにとって、Professional Studioはどのような存在ですか。

下岡:私たちの事業状況やカルチャーを深く理解してくださっている心強いパートナーです。エージェントの中には、会社のフェーズや求める人物像と合致しない方を紹介してくるケースも少なくありません。しかしProfessional Studioさんからのご紹介は常に精度が高い。今回の優秀人材の採用においても、市川さんからの適切なコミュニケーションや後押しがあったからこそ実現したと感じています。

—— AIを活用したインフラのアップデートに向けて、今後の事業スケールの構想を教えてください。

下岡:現在、全国に約47万社ある建設会社の多くが1970年前後の創業で、一斉に深刻な後継者不足に直面しています。一方でインフラ維持の需要は高まるばかりです。この需給バランスが崩れる今こそ、AIで産業構造を根本から変革する最大のチャンス。私たちは今後、M&Aを全国規模で展開し、若く優秀な人材が集まる「新しい建設業」を確立します。

さらにもう一つの柱として、実業の現場で培ったプロダクトやデータをパッケージ化し、同業他社へ提供する「AIプラットフォームビジネス」も展開予定です。自ら現場を持つからこそ得られる深い知識を活かし、各社に最適なAIエージェントを提供する。これらを通じて、業界全体のアップデートを牽引していきたいですね。

—— 最後に、求職者に向けてメッセージをお願いします。

下岡:今後、機能的スキルの価値は下がり、人間に残される価値は2つに集約されます。1つは、お客様の懐に深く入り込み、人間らしい熱量で「意識や行動の変容」を起こせる人。もう1つは、現場の曖昧な要望を汲み取り、テクノロジーで形にできる人です。 職種の枠に囚われず、泥臭いコミュニケーションと最新技術を掛け合わせる。そんな究極のビジネススキルを磨き、産業の最前線で一緒に汗を流せる方をお待ちしています。

市川:優秀な方ほど画面上の作業に物足りなさを感じ、現場の「手触り感」とリアルな課題解決を求めています。実業とテクノロジーを融合させ、自ら汗をかきながら日本のインフラを救う。これほどエキサイティングで社会的意義の大きな環境は他にありません。ぜひ多くの方に、クアンドさんのドアを叩いていただきたいですね。

──ありがとうございました!


テクノロジーの進化により、あらゆるツールの機能がコモディティ化していく現代。クアンドが提示する「AIロールアップ」という戦略は、SaaS企業が陥りがちな限界を突破し、地方のレガシー産業に真の変革をもたらす「Next SaaS」の最適解と言えるだろう。

「IT業であり建設業である」という独自のアイデンティティを持ち、現場の一次情報を何よりも重んじる同社。PCの画面越しではなく、泥臭く現場に入り込み、リアルな実業と最先端のテクノロジーを融合させる経験は、これからの時代を生き抜くビジネスパーソンにとって、最も価値のあるキャリアとなるはず。日本のインフラの未来を根本からアップデートする彼らの挑戦は、まだ始まったばかりだ。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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