終身雇用を前提としたキャリア形成が過去のものとなりつつある今、ビジネスパーソンの間では「安定」に対する考え方に変化が起きています。これからの時代、働き方を選ぶ上で何が重要な指標となるのでしょうか。
そこで、ベンチャー・中小企業向けのHR総合支援サービスを行うProfessional Studio株式会社( https://professional-studio.co.jp/ )(本社:東京都中央区、代表:市川龍太郎)は、変化する働き方の価値観を明らかにするため、主要都府県に在住する20歳~59歳の正社員5,694名を対象に調査を実施しました。
本調査の結果、20代を中心とした若手層において、会社への依存度を下げ、自らの市場価値でリスクに備える「動ける安定」を志向する傾向が見られました。
【本調査における主な結果】
・現代の正社員は「収入の安定」「ワークライフバランス」「人間関係」を重視
・20代の4割以上が「一社に依存しない」キャリアを志向、50代と大きな差
・ベンチャー社員の3人に1人が「副業」を希望、成長環境ほど自律志向が高い
※調査方法や対象者などの詳細については、後述の「調査の実施概要」をご覧ください。
主な調査結果
1.年代別に見る所属企業の変化、20代は「大手」35.4%に対し50代は「中小」が過半数に
はじめに本調査における回答者の属性を把握するため、現在所属する勤務先の企業タイプについて、年代ごとの分布を確認しました。

年代別に見ると、「中小企業、その他」の割合は年齢が上がるにつれて高くなる傾向が見られます。20代では40.3%ですが、年代とともに徐々に増加し、50代では53.2%と過半数を占める結果となりました。一方、「日系大手企業」は20代(35.4%)が最も多く、年齢とともに緩やかに減少しています。
また、「ベンチャー・スタートアップ」や「メガベンチャー」では、20代・30代の構成比が相対的に高く、上の年代になるほど割合が低くなる傾向が見られました。新しい産業や成長フェーズにある企業には、若手人材の方が集まりやすい現状がうかがえます。
2.働く上で重視すること、トップ3は「収入の安定」「ワークライフバランス」「人間関係」
ここからは、働き方に対する具体的な「価値観」について分析していきます。以下は、働く上で重視するポイントについて質問した結果をまとめたグラフです。

正社員全体で最も多く選ばれたのは「収入の安定性」で39.2%となりました。次いで「ワークライフバランス」と「人間関係・職場の雰囲気」がいずれも37.5%で並び、この3項目が突出して高い結果となっています。
一方、「高い年収」は28.0%、「仕事のやりがい」は27.3%となり、トップ3項目とは約10ポイントの差が開きました。また、「自己成長・スキルの習得」(9.2%)や「昇進・昇格のしやすさ」(6.6%)といったキャリアアップに関連する項目は、全体の中では1割未満にとどまっています。
全体として、昇進や高年収といったキャリアアップ要素よりも、収入の安定、ワークライフバランス、人間関係といった「働きやすさ」に関わる項目が重視される傾向にあります。多くの正社員にとって、まずは安心して働ける環境や生活基盤の確保が、主な関心事となっているようです。
3.20代は「雇用の安定」重視が50代の約半分、一方で「自己成長・スキル習得」は50代を上回る
続いて、年代ごとの優先順位の違いに焦点を当てて、20代と50代の比較を行います。次のグラフは、各項目における回答率の差(20代 ー 50代)が大きい順に並べたものです。グラフの上部にある項目ほど20代の特徴が強く、下部にある項目ほど50代の特徴が強いことを示しています。

「雇用の安定性」を重視すると回答した割合は、50代の27.3%に対し20代では14.3%と約半分の水準にとどまり、13.0ポイントと最も大きな差となりました。また、「収入の安定性」についても、50代では43.9%でトップ項目となっているのに対し、20代は32.9%と11.0ポイントの開きが見られました。
一方、20代が50代を上回る項目として特徴的なのが「自己成長・スキルの習得」です。20代の回答率は11.6%で、50代の6.1%と比較すると倍近い水準です。また、「高い年収」についても、20代(29.4%)が50代(24.4%)を上回っています。
20代においても「収入の安定」は依然として上位にありますが、50代と比較するとその割合は低く、「雇用の安定」についても50代の約半分にとどまります。その一方で、「高い年収」や「自己成長」への回答率は50代を上回っており、ベテラン層に比べて若手の方が、「守り(安定重視)」よりも「攻め(成長・成果重視)」の姿勢が相対的に強い傾向があるといえそうです。
【参考データ】「守り」と「攻め」、年代別にみるキャリア意識の変化
仕事の価値観の世代間ギャップを確認するため、特に20代と50代の間で差が大きかった4つの項目(収入の安定・雇用の安定・高い年収・自己成長)を抽出し、年代別の推移をグラフ化しました。

「収入の安定・雇用の安定(守り)」は年齢とともに右肩上がりで上昇する一方、「高年収・自己成長(攻め)」は若手ほど高く、年齢とともに下降しています。世代を追うごとに、キャリアにおける優先順位が「攻め」から「守り」へと徐々にシフトしていく傾向があるようです。
4.20代の4割以上が「一社に依存しない」働き方を志向、50代との意識差が鮮明に
キャリアの優先順位において「攻め」と「守り」の意識変化が見られましたが、それは具体的なキャリアプランにどう反映されているのでしょうか。理想とする働き方について質問した結果を、年代別に集計しました。

「1つの企業で定年まで働きたい(定年まで1社)」と回答した割合は、50代で41.2%と最も高く、年代が下がるにつれて減少しています。20代では23.2%にとどまり、50代と比較すると約半分(0.56倍)の水準となりました。一方、「数回の転職を経て、スキルや年収を高めていきたい(転職でスキル・収入UP)」という回答は、20代が16.1%であるのに対し、50代は7.8%と、こちらは若手が倍以上の数値を示しています。
また、「会社員として働きつつ、副業・フリーランスでも稼ぎたい(副業・フリー)」という回答は、20代で20.2%に上ります。これに「独立・起業したい(独立・企業)」(6.8%)や前述の転職志向を加えると、20代の4割以上が、一社に依存しない流動的なキャリアを視野に入れていることがわかります。
若手層にとって、もはや定年まで1社に勤め上げることだけが正解ではなくなっているようです。彼らは終身雇用を前提とせず、転職や副業といった複数の選択肢を持つことで、変化の激しい時代に適応しようとしていると考えられます。
5.企業タイプで異なる優先順位、日系大手は「安定収入」、ベンチャーは「高年収」を重視
世代による違いだけでなく、所属する企業タイプによっても、働く人が重視するポイントは大きく異なります。ここでは日系大手、メガベンチャー、ベンチャー・スタートアップについて、それぞれの優先順位を比較しました。

日系大手企業の社員で最も回答が多かったのは「収入の安定性」で35.5%でした。次いで「ワークライフバランス」(34.8%)、「人間関係・職場の雰囲気」(32.8%)と続き、「守りの安定」を最優先する傾向が見られます。
一方、ベンチャー・スタートアップ企業の社員では傾向が一変します。「ワークライフバランス」(37.2%)がトップとなり、「高い年収」(37.0%)が0.2ポイント差の僅差で続きます。特に「高い年収」は日系大手(30.9%)よりも高く、安定した給与よりも、成果に応じた高い報酬を求める「攻め」の姿勢と、私生活の充実を両立させたい意向がうかがえます。
また、メガベンチャー企業の社員でトップとなったのは「人間関係・職場の雰囲気」(26.0%)でした。メガベンチャーは他の項目が全体的に分散しており、突出した項目が少ない中で、組織風土やカルチャーマッチを重視する傾向が相対的に高いことが特徴的です。
6.ベンチャー社員の34.9%が「副業」、メガベンチャーの16.5%が「独立」を志向
最後に、企業タイプによって理想のキャリア像がどのように異なるのかを確認します。所属する環境の違いが、将来の働き方に対する考え方にどのような影響を与えているのかを見ていきましょう。

「定年まで1社」と回答した割合は、ベンチャー・スタートアップ企業の社員で34.9%と最も高く、日系大手(20.7%)を大きく上回りました。一方、メガベンチャー社員においては「独立・起業」という回答が16.5%に達しており、これは日系大手(6.5%)やベンチャー(5.5%)と比較して突出した数値となっています。
成長性の高い企業に身を置く人材ほど、一つの組織に依存しない働き方を志向する傾向が見て取れます。特にベンチャーやメガベンチャーといった環境は、業務を通じて個人のスキルや市場価値が高まりやすく、結果として「副業」や「独立」、あるいは「さらなるキャリアアップ」といった多様な選択肢を現実にしやすい土壌があるといえそうです。
まとめ:「守られる安定」から「動ける安定」へ
本調査では、多くの正社員が「日々の安心」を大切にする一方で、世代や所属する企業タイプによってその実現手段が異なる実態が明らかになりました。「会社に守ってもらう」のか、それとも「自分の力を高めて備える」のか、安定へのアプローチが二つにわかれているといえます。
特に若い世代や成長企業で働く人々には、組織への依存から脱却し、スキル向上や副業といった「選択肢」を増やすことでキャリアの主導権を握ろうとする姿勢が見られます。変化の激しい時代においては、一つの場所に留まること以上に、いつでも動ける状態を作っておくことが、新たな安心の形になりつつあるのかもしれません。
こうした変化は、これからのキャリアを考える上で、「自分にとっての本当の安定とは何か」を見つめ直す良いきっかけになるはずです。会社選びや働き方において、目先の条件だけでなく、将来の可能性を広げられる環境かどうかという視点を持つことが、納得感のあるキャリア形成への第一歩となるでしょう。
調査の実施概要
調査機関 :自社調査
調査方法 :インターネット調査(株式会社ジャストシステム「Fastask」)
対象エリア:主要都府県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県)
対象者 :20歳~59歳の正社員
調査期間 :2025年12月4日~11日
有効回答 :5,694名
※本調査では、総務省「労働力調査(詳細集計)」2024年平均における「正規の職員・従業員」の性年代別構成比に基づいて、ウェイトバック集計を行っています。

