働き方改革が進み、多くの企業で労働時間の見直しが進んでいます。一方で、残業時間や働く場所の違いといった具体的な労働環境が、個人のキャリア選択や転職行動にどのような影響を及ぼしているのか、その詳細な関連性は気になるところです。
そこで、ベンチャー・中小企業向けのHR総合支援サービスを行うProfessional Studio株式会社( https://professional-studio.co.jp/ )(本社:東京都中央区、代表:市川龍太郎)は、労働環境が個人の転職行動に与える影響を明らかにするため、主要都府県に在住する20歳~59歳の正社員5,694名を対象に調査を実施しました。
本調査の結果、残業時間などの労働負荷が一定のラインを超えるごとに、転職に向けた具体的な行動が段階的に増加する傾向が見られました。
【本調査における主な結果】
・正社員の4割が残業10時間未満、スタートアップも約4割が同水準
・メガベンチャーではハイブリッドワークが主流、「毎日出社」は2割にとどまる
・残業時間が増えるほど転職行動が活発化、60~80時間層では約3割が活動を本格化
※調査方法や対象者などの詳細については、後述の「調査の実施概要」をご覧ください。
主な調査結果
1.残業は「月10時間未満」が40.3%で最多、多くの正社員は月30時間以内
働き方の多様化が進む中、正社員の労働時間は実際にどのようになっているのでしょうか。はじめに、月平均の残業時間について質問した結果を集計したグラフです。

正社員全体で最も比率が高かったのは「10時間未満」の40.3%でした。次いで「10~20時間未満」(18.8%)、「20~30時間未満」(15.1%)と続き、月30時間未満と回答した人が全体の7割以上を占める結果となりました。一方、「45時間以上」と回答した層は合計で1割程度にとどまっています。
この分布からは、多くの正社員にとって、極端な長時間労働をしている層は少数派となっている現状が見て取れます。月10時間未満という残業の少ない働き方が、現代の正社員における最大のボリュームゾーンとなっているようです。
2.スタートアップ社員の約4割が「残業10時間未満」、大手や外資系企業よりも高い水準に
全体としては残業が少ない傾向が見られましたが、所属する企業タイプによっては違いがあるのでしょうか。続いて、所属する勤務先を企業タイプに分類して、それぞれの残業時間を集計しました。

残業が「10時間未満」の割合を見ると、最も高かったのは「中小企業・その他」で53.1%、次いで「ベンチャー・スタートアップ」も39.5%となりました。一方、「メガベンチャー」における同回答率は10.9%となっており、こちらは「20~30時間未満」の層が37.8%で最多を占めています。
長時間労働になりやすいイメージを持たれることもあるかもしれませんが、「スタートアップ・ベンチャー」の残業時間は「日系大手企業」(27.4%)や「日系中堅企業」(34.0%)と比較しても、「10時間未満」の割合が高い結果となりました。同じベンチャーでも「メガベンチャー」とは残業時間のピークとなる層が異なっており、企業規模やフェーズによって働き方のスタイルに違いがあることがうかがえます。
【参考データ】年齢による残業時間の差は限定的
年齢によって働き方に違いがあるのかを確認するために、年代別の残業時間についても集計しました。

「残業10時間未満」の割合は20代から40代まで38%前後で推移しており、年代による顕著な違いは見られません。働き方のスタイルは、年齢という個人の属性よりも、前項で見たような「どの企業タイプを選ぶか」という環境要因によって決まる側面が大きいと考えられます。
3.出社頻度は「週5日以上出社」が70.2%で最多、完全リモート派は3.0%にとどまる
ここまでは労働時間に焦点を当ててきましたが、働く場所や頻度についてはどうでしょうか。以下のグラフは、現在の出社頻度について質問した結果です。

最も回答が多かったのは「週5日以上出社」で、全体の70.2%を占めました。これに「週3~4日出社」(14.4%)と「週1~2日出社」(7.7%)が続き、何らかの形で週に数回以上出社している人が大半となっています。一方、「完全リモート」と回答した人はわずか3.0%でした。
柔軟な働き方が注目される機会は増えていますが、現在の実態としては毎日出社する形が主流であることがわかります。多くの正社員にとって、オフィスへの出社を前提とした働き方が現在も一般的となっているようです。
4.「週5日以上出社」の割合は企業タイプで鮮明な差、メガベンチャーではハイブリッドワークが主流に
残業時間と同様に、出社頻度に企業タイプによって違いはあるのでしょうか。企業タイプ別の出社頻度を集計した結果を見ていきます。

「週5日以上出社」の割合は、「中小企業・その他」で83.2%、「日系中堅企業」で66.1%、「日系大手企業」で60.2%と、伝統的な日本企業において高い傾向が見られました。
一方で、「メガベンチャー」では「週5日以上出社」は21.2%にとどまり、「週3〜4日出社」が33.3%、「週1〜2日出社」が30.0%と、ハイブリッドワークが中心となっています。また、「外資系企業」では「完全リモート」の割合が10.1%と、他の企業タイプと比較して最も高い数値を示しました。
このように、所属する企業タイプによって出社頻度の傾向には明確な違いが見られます。日系の大手・中小企業では対面重視の傾向が強い一方、外資系やメガベンチャーではリモートワークを組み込んだ柔軟な働き方が広がっているようです。
5.20代・30代の約3割が転職に向けたアクションを開始、50代の2倍以上の水準に
ここまで働く環境について見てきましたが、ここからは個人のキャリア意識に視点を移します。次のグラフは、現在の転職意向について質問した結果を年代別に集計したものです。

「情報収集」から「カジュアル面談」「応募・選考」「内定・転職予定」までを含めた、何らかの転職活動を行っている層の合計は、20代では28.6%、30代で26.2%となりました。一方、40代では21.6%、50代では12.5%と、年代が上がるにつれて割合は低下しており、20代と50代では2倍以上の開きがあります。
この結果から、20代と30代においては、およそ4人に1人以上が次のキャリアを模索していることがわかります。年齢層が上がるほど現在の環境への定着傾向が強まるのに対し、若手から中堅層にかけてはキャリアの流動性が高く、世代による意識の違いが見て取れます。
6.残業60~80時間層の約3割が転職活動を本格化、30時間・60時間を境に増加傾向
続いて、労働環境における重要な要素である「残業時間」について、個人の転職行動との関連性を分析しました。月間の残業時間別に現在の転職意向を集計し、その傾向を見ていきます。

データを見ると、残業時間が長くなるにつれて、転職に向けて何らかのアクションを起こしている人の割合(「情報収集・カジュアル面談・応募・内定」の合計)が段階的に増加しています。残業10時間未満では1割程度にとどまっていますが、月30時間を超えると3割を超える水準となり、転職への関心の高まりがうかがえます。
さらに、企業やエージェントと接触する「カジュアル面談・応募・内定」の合計に着目すると、残業20~30時間層の8.9%に対して30~45時間層では15.3%(約1.7倍)に、45~60時間層の18.5%に対して60~80時間層では30.1%(約1.6倍)に増加しました。月30時間と60時間を境に、転職活動が本格化しやすいといえそうです。
また、80時間以上層では、「応募・内定」を合わせた、具体的な応募以降の段階にある人が18.5%となりました。10時間未満層における同数値(2.9%)と比較すると約6.4倍に達し、およそ5人に1人が転職の最終局面まで進んでいる状態です。
7.「月数回程度」出社層の転職活動率が最も高く27.0%、「毎日出社」層の5倍に
最後に、残業時間ではなく「出社頻度」の違いが転職行動にどのような影響を与えているかを見ていきます。現在の出社頻度別に、転職意向を集計しました。

「カジュアル面談・応募・内定」といった、実際に転職に向けて動き出している人の割合を比較すると、「月数回程度(週1日未満)」の層が27.0%で最も高い結果となりました。次いで「週1〜2日出社」が15.4%、「完全リモート」が14.1%、「週3~4日出社」が12.2%と続き、柔軟な出社スタイルの層で活動率が高くなっています。一方、「週5日以上出社」層は5.4%にとどまり、最も高い「月数回程度」層とは約5.0倍の開きがあります。
毎日オフィスに出社している層は現在の環境への定着傾向が強い一方、リモートワークを取り入れた柔軟な働き方をしている層では転職活動の割合が高い結果となりました。背景として、こうした層は自身のキャリアに対する感度が相対的に高く、社外の機会も含めてより良い働き方を探している可能性が考えられます。
まとめ:働き方と転職行動に見る、労働環境とキャリア流動性の関係
今回の調査では、残業時間や出社頻度といった労働環境と転職行動とのあいだに、段階的な変化のパターンが見られました。全体としては月30時間未満の残業が多数を占める一方、企業タイプによって働き方には大きな違いがあり、若手から中堅層にかけてのキャリア流動性の高さも確認されています。
特に注目すべきは、残業時間が一定のラインを超えるごとに、情報収集から外部との接触、そして応募・内定といった具体的な行動へと、転職活動が段階的に進んでいく傾向です。また、柔軟な働き方を実現している層ほどキャリアに対して能動的であることも示されており、労働時間と働き方の柔軟性が、人材の流動性に関わっていることがうかがえます。
こうした結果は、ご自身の労働環境や働き方が、キャリアに対する意識にどう影響しているかを見つめ直すきっかけになるでしょう。自分に合った環境を選ぶことが、長期的なキャリア形成においても重要な要素であることを、改めて考える機会となりそうです。
調査の実施概要
調査機関 :自社調査
調査方法 :インターネット調査(株式会社ジャストシステム「Fastask」)
対象エリア:主要都府県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県)
対象者 :20歳~59歳の正社員
調査期間 :2025年12月4日~11日
有効回答 :5,694名
※本調査では、総務省「労働力調査(詳細集計)」2024年平均における「正規の職員・従業員」の性年代別構成比に基づいて、ウェイトバック集計を行っています。

