スタートアップの上場ニュースなどで、「ストックオプション(以下、SO)」について耳にする機会が増えています。将来的な利益を見込める制度として注目される一方で、実際のビジネスパーソンがどの程度詳細を理解し、どのように受け止めているのでしょうか。
ベンチャー・中小企業向けのHR総合支援サービスを行うProfessional Studio株式会社( https://professional-studio.co.jp/ )(本社:東京都中央区、代表:市川龍太郎)は、SOに対する認知や受け止め方を明らかにするため、主要都府県に在住する20歳~59歳の正社員5,694名を対象に調査を実施しました。
本調査の結果、多くの正社員がSOの詳細を理解していない一方で、置かれた環境や転職活動の段階によって、その価値の捉え方が変化する傾向が見られました。
【本調査における主な結果】
・正社員の7割超が制度内容を知らない、名前を聞いたことがない人も4割超
・SOに持つイメージは「モチベーション」が最多、「夢がある」を大きく上回る
・転職活動中のカジュアル面談層では、約6割が「年収ダウン+SO」を選択したいと回答
※調査方法や対象者などの詳細については、後述の「調査の実施概要」をご覧ください。
主な調査結果
1.SO制度を理解していない正社員が7割超、「聞いたことがない」との回答も4割超
はじめに、正社員を対象にSOに関する認知・関心度について質問した結果です。
※ストックオプション(SO):
あらかじめ決められた価格で自社株を購入できる権利のこと。スタートアップ企業などで導入されるケースが多く、企業の上場時などに株価が上昇すると、権利行使によって大きな利益を得られる可能性があります。

調査の結果、最も回答が多かったのは「全く知らない・聞いたことがない」で43.7%でした。これに「名前は聞いたことがある(内容は詳しく知らない)」層(32.7%)を合わせると、制度の内容を詳しく理解していない層は76.4%に達します。
一方、「内容まで詳しく知っている」層は23.5%でしたが、そのうち「非常に魅力を感じる」と回答した人はわずか10.4%にとどまりました。
言葉としての知名度は一定程度あるものの、仕組みまで正しく把握している人は少数派です。また、制度を理解した上で魅力を感じている人も全体の1割程度にとどまっており、大半の会社員にとっては、具体的な関心の対象には至っていないことがうかがえます。
2.SOを「詳しく知っている」割合、メガベンチャーの24.2%に対しスタートアップは12.7%にとどまる
続いて、所属する企業タイプによってSOの認知状況にどのような違いがあるのかを見ていきます。次のグラフは、所属する勤務先の企業タイプ別に、SOの認知度を集計・比較したものです。

企業タイプ別に見ると、「内容まで詳しく知っている」割合はメガベンチャー在籍者が57.8%であったのに対し、ベンチャー・スタートアップでは23.0%にとどまり、日系大手企業(35.0%)をも下回る結果となりました。また、「全く知らない」という回答も、メガベンチャーの11.0%に対し、ベンチャー・スタートアップでは30.9%となりました。
同じ成長企業であっても、組織規模によって認知状況には2倍以上の開きがあるという結果です。スタートアップだからといって必ずしも制度が広く浸透しているわけではなく、これからの成長フェーズにある企業ほど、制度の理解促進や情報提供の余地が大きいと考えられます。
3.SOのイメージ、「モチベーションに繋がる」が22.5%で最多、「夢がある」を大きく上回る
これまでは知識の有無について見てきましたが、実際に制度の内容を知った場合、正社員はどのような印象を持つのでしょうか。アンケート内でSOの仕組みを提示した上で、そのイメージについて質問した結果が次のグラフです。

最も回答が集まったのは「仕事のモチベーションに繋がる」で22.5%、次いで「わからない」が21.9%、「自分には関係のない話だと感じる」が21.4%と続きました。「リスクが高く、あてにならないと感じる」は12.3%、「大きな利益を狙えて、夢がある」は12.2%となっています。
SOには一攫千金の夢というイメージよりも、日々の業務への意欲を高める現実的なインセンティブとして捉える人が多いことを示す結果となりました。一方で、説明を受けてもなお「わからない」「関係ない」とする層が合わせて4割を超えており、自身に直接関わるメリットとしてイメージしにくい側面もあるようです。
4.上昇志向・独立志向層ほどSOを「モチベーション」と捉える傾向
SOへの受け止め方は、個人のキャリア観によってどのように変わるのでしょうか。次のグラフでは、キャリアに対する考え方ごとに、SOをどう評価しているかを比較しています。

「仕事のモチベーションに繋がる」と回答した割合が最も高かったのは、将来は独立・起業したい層(独立・起業)で34.0%でした。次いで、同じ会社で長く働きつつ管理職・役員を目指したい層(同一企業で昇進)が31.9%、数回の転職を経てスキルや年収を高めていきたい層(転職でスキル・収入UP)が30.6%と続きます。一方で、1つの企業で定年まで働きたい層(定年まで1社)では18.8%にとどまりました。
自身のキャリアに対して上昇志向や挑戦心を持っている層ほど、SOをポジティブな動機づけとして受け止める傾向が強く出ています。定年まで安定して働きたいと考える層と比較すると10ポイント以上の開きがあり、将来の成長や成功を志向する人材にとって、SOは特に相性の良いインセンティブ制度であるといえそうです。
【参考データ】メガベンチャー在籍者の36.2%が「モチベーション」と回答
こうしたSOに対するイメージは、所属する企業の環境によってどう変わるのでしょうか。同様に、企業タイプ別に比較を行いました。

「仕事のモチベーションに繋がる」と回答した割合は、メガベンチャー在籍者が36.2%で最も高く、日系大手企業の27.4%、ベンチャー・スタートアップの24.9%を上回りました。SOが身近に活用され、成功事例を目にする機会も多い環境ほど、制度を前向きなインセンティブとして捉えやすい傾向があるのかもしれません。
5.転職オファー条件は「年収維持」が68.4%で多数派、3割超は「年収ダウン・SO付き」を選択
では、実際に年収ダウンの可能性を含む転職オファーが提示された場合、人々はどのような判断を下すのでしょうか。次のグラフは、成長中のベンチャー企業から「現年収を維持・SOなし」と「現年収から100~200万円ダウン・SO付き」の2つの条件を提示した場合に、どちらを選ぶか尋ねた結果です。

回答者の68.4%が「現年収を維持・SOなし」を選択し、年収ダウンを避けたいと考える人が多数派となりました。一方、「現年収から100~200万円ダウン・SO付き」を選んだ人は31.6%でした。
全体としては、将来のリターンよりも現在の条件を優先する傾向がうかがえます。ただし、リスクを取ってでも将来のアップサイドを選ぶ層が3割以上存在することから、SOは一部の例外的な人だけの制度ではなく、一定層にとって現実的な選択肢になっていると考えられます。
6.カジュアル面談層で“SO派”が増加、60.9%が「年収ダウン・SO付き」を選択
SOの選択傾向は、個人が置かれた状況によって変化することがあるのでしょうか。次のグラフは、前項の質問結果を回答者の転職意向別に集計したものです。

転職を「考えていない」層や「興味はあるが、具体的には動いていない」層では、いずれもSOを選ぶ割合は2割台にとどまりました。一方で、「転職サイトの閲覧・情報収集」を行っている層では約4割まで高まり、「気になった企業とカジュアル面談をしている」層では6割超に達しました。
その一方で、「実際に応募・選考を受けている」層や「内定・転職予定がある」層では、再び年収維持を選ぶ人が多数となっています。転職意向が高まる過程でSOを前向きに捉える局面がありつつも、転職検討がより具体的な段階にある層ほど、年収水準とSOのバランスを冷静に見極める傾向がうかがえます。
まとめ:SOの可能性とリスク、正しい理解が選択のカギ
今回の調査を通じて、SOに対する認知には大きな差があるものの、制度を知った上で前向きに受け止める層も存在することがわかりました。人によって印象は分かれますが、転職活動が進み、企業と直接対話する段階になると、判断が大きく変化する傾向もあるようです。
ただし、SOは将来の企業成長に連動して価値を生む仕組みであり、不確実性や条件の制約を伴います。成功すれば大きな対価になり得る一方、確実な給与とは性質が異なるため、仕組みを十分に理解しないまま期待を膨らませると、誤解や失望につながりかねません。
転職を検討する人は、提示額の大きさだけでなく、実現の条件やリスクについても企業と丁寧に確認することが、納得できる選択につながります。企業側も、メリットだけでなく制度の特性を率直に伝えることが、双方にとって有益な関係を築く上で欠かせない要素といえるでしょう。
調査の実施概要
調査機関 :自社調査
調査方法 :インターネット調査(株式会社ジャストシステム「Fastask」)
対象エリア:主要都府県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県)
対象者 :20歳~59歳の正社員
調査期間 :2025年12月4日~11日
有効回答 :5,694名
※本調査では、総務省「労働力調査(詳細集計)」2024年平均における「正規の職員・従業員」の性年代別構成比に基づいて、ウェイトバック集計を行っています。

