スタートアップに特化したキャリア支援を行っているProfessional Studio株式会社が、スタートアップで働くリアルを伝えるメディア『Startup Frontier』。よく目にするポジティブな面ばかりでなく、苦しみや葛藤など、スタートアップキャリアを歩むうえでのハードシングスについても隠さずにお伝えします。
今回は、次世代の信用インフラ創造へ挑むリース株式会社にて、執行役員/VPoA コーポレートユニット ユニットマネージャーを務め、公認会計士でもある東海林 麻美(Asami Tokairin)氏のスタートアップキャリアを紐解きます。
【Profile】
リース株式会社 執行役員/VPoA コーポレートユニット ユニットマネージャー 東海林 麻美氏
大学在学中より、メンタルトレーニングの提供を行う会社にてメンタルトレーナーとして活動。その後、公認会計士を志し、試験合格後、監査法人(EY新日本)に入社。主に地方銀行と政府系金融機関の監査を担当する。2019年、中小企業再生支援コンサルティング会社へ。借入金の返済が困難になった中小企業のサポートを行う。2020年、セーフィー株式会社入社。経営管理本部にて、上場準備業務に携わる。2022年5月、リースにジョイン。
仕事もママも、全力で
ーーまずは、現在の業務内容について教えてください。
リース株式会社のコーポレート業務全般を担っています。コーポレート部門の専任はまだ私だけなので、幅広い業務を担当している状況です。
また、経営企画室の業務も一部担当しています。
ーー東海林さんは、一児の母でもいらっしゃいます。どのように時間を使っているのでしょうか?
リースはコアタイムなしのフレックスタイム制を導入しているので、子供の送り迎えや通院、子供との時間も作りながら柔軟に働いています。
毎日朝5時には起きて支度をし、子どもを預けた後、会社へ向かいます。リモートの日もありますが、コーポレート部門の専任がまだ私だけなので、出社が必要な業務の他、社員が何かあったときに相談しやすいよう、なるべく会社にいるようにしています。夕方は早めに退社し、18時過ぎに子どものお迎えをします。子どもを寝かしつけるのが、だいたい21時前くらいで、そこから残っている仕事を片付けて寝る、というのがよくある1日のスケジュールです。
ーー非常に忙しいですね…。
そうですね、今が人生で一番忙しいかもしれません。仕事の量だけで言えば、今よりハードだった時期もあるのですが、育児も含めたトータル時間で見ると、今は一番やるべきことが多いです。「24時間ってこんなに短いんだ」と感じながら毎日を駆け抜けています。
私自身、子育てと仕事の両立がこれほど大変なことだとは思っていませんでした。ただ、いい経験だとも感じています。今後リースにも、仕事と子育ての両立に悩む社員が必ず現れるはずです。そのとき、気持ちを真にわかってあげられる人が社内にいれば、少しは支えになれるかなと思っています。
ーーハードな毎日かと思います。それでも、モチベーションが上がり続けているのはなぜなのでしょうか?
社会や誰かの未来のために、今、大事な仕事をしている、という実感があるからです。大前提として、私はリースのサービスが好きです。社会や誰かの人生をよりよくするものだと信じています。そのようなリースのサービスが今よりさらに多くの人に届けられる土台づくりに、やりがいを感じています。
また、組織規模の小さなうちから、これからの事業拡大に耐えられる、理想的な体制構築ができれば、会社はスムーズに大きくなれます。仮に会社の進む方向が変わっても、土台さえしっかりしていれば、大きくつまずくことはありません。未来のあるべき姿を想像しながら仕事をする楽しさは、どこか子育ての楽しさにも似ているのかなと思います。
ワーストケースも、キャリアにとっては大きな価値
ーースタートアップキャリアは33歳のとき、クラウド録画サービスを展開するセーフィー株式会社からスタートしています。きっかけはなんだったのでしょうか?
それも、誰かの役に立ちたいという思いからです。
実は私はもともと、公認会計士として中小企業の事業再生に携わっていました。企業にとって「再生できなければ生き残れない」という非常に重要な局面で誰かの力になれることは、大きなやりがいを感じられると思ったのです。
しかし、いざ仕事を始めると、大きなやりがいを日々感じられる反面、もどかしく感じることも多くなりました。とある案件では、経営者の方が人手不足で事務周りの業務もすべて担当し、ひどく疲弊していました。その方とご一緒するうちに、もしも私がその会社の社員だったら、社長は自分の仕事にもっと専念できるのに、ともどかしく感じることがあったのを今でも鮮明に覚えています。
そこで、自分が本当に役に立ちたいと思える事業会社に入社したいと考えるようになりました。そのなかで、出会ったのがセーフィーでした。
当時セーフィーが力を入れていた、パソコンやスマートフォンでいつでもどこでも映像が見られる「クラウド録画カメラ」は、社会からのニーズが強く、誰かにとってかけがえのないプロダクトというイメージができました。
ーー初めてのスタートアップということで、不安はなかったのでしょうか。
ないわけではありませんでした。ただ、上場前のフェーズだからこそ経験できることは非常に多く、一つひとつの出来事が価値になると考えました。
また、事業再生に携わった経験から、万が一事業がうまくいかなくなり、M&Aや倒産といった結末だったとしても、その結末にいたるまでの過程を経験することで、次は異なる選択をし異なる未来を選ぶことができます。こういった経験をした人材はきっとレアで、一時的には職を失っても、必ず次のチャンスがあると考えています。
出産・育児でブランクが空く前に、自分にとって最高のポジションに転職
ーー入社して2年で、2社目のスタートアップへと転職されています。なぜだったのでしょうか?
さらに基礎的な土台づくりを経験したいと思ったからです。
セーフィーでは、IPOを実現させるため必要な業務を幅広く担当しました。無事に上場を果たした後は、大きな達成感と同時に「ようやく落ち着いて細やかな体制づくりに着手できる」という気持ちがありました。
仕方のないことですが、上場直前では、目の前の上場をクリアーするためにはどうしても、細やかな体制づくりまでは手を広げられず、後回しにせざるを得ない部分があります。
ただ、上場後いざ着手をしようとすると、意外と上場後はいろいろなものを変えにくいことにも気がつきました。
すでに運用中のルールを変更することは社員の負担になり、ミスの原因にもなります。細部まで行き届いた理想の体制づくりに取り組むべきタイミングは、上場の「後」ではなく上場のずっと「前」だと気がついたんです。その経験から上場前のまだ整っていない会社で、組織の基盤づくりに携わりたい、と考えるようになったのです。
とはいえ、転職には悩みました。これまでのキャリアのなかで一番悩んだかもしれません。セーフィーのことは大好きで、その行く末をずっと見守りたい思いもありました。また、妊娠中だったので、育休をしっかりとるのも一つの選択肢かなとも考えました。セーフィーなら、育休をしっかりとることも快く受け入れてもらえたと思います。
ただ、私は転職をするなら今しかないとも思ったんです。長期の育休によるブランクが発生すると、どうしても人材としての競争力が下がる気がします。責任のある、私が望むようなポジションを任せてもらえるタイミングは、今しかないと考え、相談をしたのが、Professional Studioの市川さんでした。
ーー市川さんに伺います。東海林さんをどのようにサポートされたのでしょうか?
市川:私からは最初に2つのキャリアパターンをご提案しました。1つは、仕事の量をセーブしやすい非常勤的なポジションで、出産や育児を最優先とした働き方をすること。もう1つは、これまでと同じかそれ以上のポジションで、最低限の育休だけとってバリバリ働くパターンです。最終的には、仕事も出産・育児も両方とも全力で臨みたいという東海林さんの意向を聞き、後者のプランで進めることにしました。
ご本人の思いを尊重して決めた結果ではありますが、健康面で問題ないならば、私も両方頑張るパターンが良いかなと思います。
実は私の妻もキャリアのために出産ギリギリまでベンチャー企業の管理職として働いていて、どちらも諦めたくない気持ちがなんとなく想像できたんです。
東海林さんのおっしゃる通り、ブランクがあるとどうしても人材市場では不利になる傾向があります。東海林さんは当時30代半ばで、実績を積む大事な時期でした。ブランクをつくらず、よいポジションに就いてもらうことで、東海林さんが望むようなキャリアを切り拓けるのではと思いました。
ーー市川さんからの提案を聞いて、東海林さんはどのように思われたのでしょうか?
ありがたかったです。
いくつかの転職エージェントと話をしましたが、妊娠中だと伝えると「一度転職は見送りし、産後に落ち着いてから考えるべき」とアドバイスをされることが多かったです。しかしどうしても諦めきれなかった私は、エージェント探しを続けていました。そんな時、知人から紹介していただいたのがProfessional Studioさんです。世の中の慣習にとらわれず、2つのパターンを提示してもらえ、非常に心強かったのを覚えています。
ーーなぜ最終的にリースに決めたのでしょうか?
まず、まだ体制が固まっておらず、ここでならゼロに近いところから理想的な体制づくりができると感じたことです。
また、もともと信用評価について課題を感じており、次世代の信用インフラは社会や誰かに必要とされる領域だとも思っています。以前、金融機関の監査をおこなっていたときに、画一的なルールで信用評価を行うことが多い仕組みに対する疑問と、実態にあった信用評価をする難しさを実感していました。法人であれば過去の決算の内容で、個人であれば職業や職歴などの情報で機械的に評価することが多く、これらの情報だけでは正しく信用評価できないと感じ、なんとも言えないもどかしさを抱えていました。
欲張りに生きる選択肢を、もっと多くのママたちへ
ーー今現在、コーポレート部門の責任者と育児とを両立されていますが、しっかり育休を取得する道もあったとおもいます。振り返ってみて、どちらが正解だったと思いますか?
人による、というのが本音です。
私の場合は欲張りなので、育児も仕事も全力で取り組む道を選んでよかったと思いますが、同じ道を歩む場合、毎日が非常に忙しくなることに対する相当の覚悟が必要です。周りから協力が得られるかも確認しておくべきでしょう。ただ、育児に専念する場合にも違う覚悟が求められると思います。ブランクをはさんで仕事に戻ることは大変ですし、休んでいる間に取り残されていくような感覚を覚える精神的なつらさもあるでしょう。
今後、リースに出産を控えたメンバーが出た場合、まずは本人の意思を確認するつもりです。会社としてはどのパターンでもサポートできるよう体制を整え、本人の選択を後悔のないものにする後押しができればと思っています。時短勤務もそうですし、休業以外の選択肢も模索する等、なるべく本人の希望に添った働き方が提案できるといいなと思っています。
ーー最後に、今後の展望について教えてください。
引き続き、コーポレート部門の責任者として、リースが掲げるミッション・ビジョンの達成に向けて、会社の基盤づくりに全力を注いでいければと思っています。将来的に子育てが落ち着いた後は、リースを中心に、もっと広く誰かの助けになれるとうれしいです。
加えて、私と同じようにキャリアも子育ても諦めたくないという方のために、何か自分にできることはないかなとも考えています。今、私の経験を伝えられるのは、私が普段接している限られた人たちだけですが、日本中の悩める誰かに私の経験をお伝えできれば、少しは役に立てるのでは、と思っています。固定概念にとらわれず、欲張りに生きる選択肢を、多くの人に伝えていきたいです。
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