イントレプレナーという言葉は、企業内で新たな事業やプロジェクトを自ら立ち上げ、推進する社員を指します。近年、企業の中でイントレプレナーシップ（企業内起業家精神）を持つ人材の重要性が増しており、競争力を高めるためのカギとされています。
そこで本記事では、イントレプレナーとは何か、アントレプレナーとの違いや必要なスキル、そして育成のための具体的な方法や事例を詳しく解説します。企業の成長を牽引するイントレプレナーの可能性を探ってみましょう。
イントレプレナーとは
イントレプレナーとは、企業内で新たな事業やプロジェクトを自ら立ち上げ、推進する社員を指します。ここでは、イントレプレナーについて解説します。
イントレプレナーとはなにか
イントレプレナーは、アントレプレナー（起業家）と似たような役割を果たしますが、主な違いは、イントレプレナーが既存の企業の枠組みの中で活動する点です。彼らは、企業の文化や戦略に沿った形で新しい価値を創造し、組織の成長に寄与します。
イントレプレナーは、単に新しいプロジェクトを立ち上げるだけでなく、リスクを管理し、チームをまとめ、成果を上げるためのリーダーシップを発揮することが求められます。
彼らの活動は、企業の競争力を高めるだけでなく、社員のモチベーション向上やイノベーションの促進にもつながります。
アントレプレナーとの違い
イントレプレナーとアントレプレナーは、どちらも新しい事業やプロジェクトを立ち上げる役割を担いますが、その活動の場や目的には明確な違いがあります。
アントレプレナーは、独立した企業を設立し、リスクを取って新たなビジネスを創出する起業家を指します。彼らは自らのビジョンを実現するために、資金調達や市場開拓を行い、成功を目指します。
一方で、イントレプレナーは企業内で活動する起業家精神を持つ社員です。彼らは既存の企業のリソースやブランドを活用しながら、新しい事業やプロジェクトを推進します。
イントレプレナーは、企業の戦略に沿った形で新たな価値を創造することが求められ、リスクを取る一方で、企業の安定性を保つ役割も担っています。
イントレプレナーが注目されている背景
イントレプレナーが注目される背景には、企業環境の急速な変化と競争の激化があります。
特にデジタル化やグローバル化が進む中で、企業は新たなビジネスモデルやサービスを迅速に展開する必要があります。このような状況では、従来の業務にとどまらず、自ら新しい価値を創造する能力が求められています。
また、若い世代の働き方や価値観の変化も影響しています。特にミレニアル世代やZ世代は、自己実現や社会貢献を重視する傾向が強く、単なる雇われ社員としての働き方に満足しないことが多いです。
イントレプレナーを育成するメリット
ここでは、イントレプレナーを育成するメリットについて詳しくみていきましょう。
将来の経営幹部候補が増える
イントレプレナーを育成することは、将来の経営幹部候補を増やす大きなメリットがあります。
イントレプレナーシップを持つ社員は、自ら新しい事業やプロジェクトを立ち上げる能力を持ち、企業の成長を促進する重要な役割を果たします。彼らは市場の変化に敏感で、顧客のニーズを的確に捉えることができるため、経営戦略の策定にも貢献します。
また、イントレプレナーはリーダーシップやマネジメント能力を自然に磨くことができる環境に置かれます。新しいプロジェクトを推進する中で、チームをまとめ、メンバーを指導する経験を積むことで、経営幹部として必要なスキルを身につけることができます。
優秀な人材の定着が計れる
イントレプレナー育成は、優秀な人材の定着を促進に繋がります。
イントレプレナーは、自らのアイデアを実現するために積極的に行動し、企業の成長に寄与する存在です。このような環境を提供することで、社員は自分の能力を最大限に発揮できると同時に、企業への帰属意識も高まります。
また、イントレプレナーシップを重視する企業は、社員に対して挑戦の機会を与えるため、自己成長を実感しやすくなります。これにより、社員は企業に対する忠誠心を持ち続け、長期的に働き続ける意欲が高まります。
特に、若手社員や中堅社員にとっては、自分のアイデアが実現されることで、キャリアの成長を感じることができ、企業に対する愛着が深まります。
事業の幅が広がる
イントレプレナーの育成は、企業にとって新たな事業機会を創出する重要な要素ともなります。イントレプレナーシップを持つ社員は、既存のビジネスモデルにとらわれず、革新的なアイデアを提案し、実行に移す能力を持っています。
これにより、企業は新しい市場や顧客層にアプローチすることが可能となり、競争力を高めることができます。
さらに、イントレプレナーが推進するプロジェクトは、企業の多様性を促進します。異なる視点やアプローチが融合することで、従来のビジネスに新たな価値を加えることができ、結果として事業の幅が広がります。
イントレプレナーに必要なスキル
イントレプレナーとして成功するためには、特定のスキルセットが求められます。まず重要なのは、事業計画の策定能力です。
事業計画の策定能力
イントレプレナーにとって、事業計画の策定能力は不可欠なスキルの一つです。事業計画は、アイデアを具体的な形にするための道筋を示すものであり、成功するための戦略や目標を明確にする役割を果たします。
イントレプレナーは、企業内で新たなプロジェクトを立ち上げる際に、まず市場のニーズや競合状況を分析し、どのような価値を提供できるかを考える必要があります。
事業計画には、ビジョンやミッション、ターゲット市場、収益モデル、マーケティング戦略、財務計画など、多岐にわたる要素が含まれます。
これらを的確に策定することで、イントレプレナーはプロジェクトの実現可能性を高め、経営陣や投資家に対して説得力のあるプレゼンテーションを行うことができます。
マネジメント能力
イントレプレナーにとって、マネジメント能力も不可欠なスキルの一つです。
新たな事業やプロジェクトを推進する際には、チームを効果的にリードし、メンバーの能力を最大限に引き出すことが求められます。
具体的には、目標設定や進捗管理、リソースの最適配分など、さまざまな要素を考慮しながらプロジェクトを進める必要があります。
また、イントレプレナーは多様なバックグラウンドを持つメンバーと協力することが多いため、コミュニケーション能力も重要です。意見の相違や課題に対して柔軟に対応し、チーム全体の士気を高めるための対話を促進することが、成功への鍵となります。
未知のものを形にする実行力
未知のものを形にする実行力もイントレプレナーにとって不可欠なスキルです。
新たな事業やプロジェクトを立ち上げる際には、予測できない課題やリスクが常に存在します。そのため、イントレプレナーはアイデアを具体化し、実行に移すための強い意志と行動力が求められます。
この実行力は、単に計画を立てるだけではなく、実際に行動を起こし、試行錯誤を繰り返すことによって磨かれます。イントレプレナーは、失敗を恐れずに新しいアプローチを試みる姿勢が必要です。
イントレプレナーの育成を成功させるためのコツ
イントレプレナーの育成を成功させるための具体的なコツをいくつか紹介します。
アイデアを発表する機会を作る
イントレプレナーを育成するためには、アイデアを発表する機会を設けることが重要です。
新しい事業やプロジェクトの立ち上げには、創造的な発想が欠かせませんが、そのアイデアを実際に形にするためには、他者とのコミュニケーションが不可欠です。定期的なアイデア発表会やワークショップを開催することで、社員は自分の考えを自由に表現し、フィードバックを受けることができます。
このような場を提供することで、社員は自信を持って自分のアイデアを発表できるようになり、他のメンバーとの意見交換を通じて新たな視点を得ることができます。
裁量権を与える
イントレプレナーを育成するためには、彼らに裁量権を与えることも必要です。裁量権とは、業務において自らの判断で行動する権限を指し、イントレプレナーが新たなアイデアやプロジェクトを推進する際に必要不可欠な要素です。
企業内での自由度が高まることで、イントレプレナーは自分のビジョンを実現するための具体的な行動を取ることができ、結果として新しい価値を創造することが可能になります。
裁量権を与えることにより、イントレプレナーは自らの責任で意思決定を行うことができ、失敗を恐れずにチャレンジする姿勢を育むことができます。このような環境は、創造性や革新性を促進し、企業全体の活性化にもつながります。
また、裁量権を持つことで、イントレプレナーは自分のアイデアに対するオーナーシップを感じやすくなり、より積極的にプロジェクトに取り組むようになります。
短期的な結果を求めない
イントレプレナーの育成において、短期的な結果を求めない姿勢は非常に重要です。新たな事業やプロジェクトの立ち上げには、時間と試行錯誤が必要不可欠です。
特に、企業内でのイノベーションを促進するためには、失敗を恐れずに挑戦する文化を醸成することが求められます。短期的な成果を重視すると、リスクを避ける傾向が強まり、結果として革新的なアイデアが埋もれてしまう可能性があります。
したがって、企業はイントレプレナーに対して長期的な視点を持たせることが重要です。具体的には、プロジェクトの進捗を評価する際に、短期的な成果だけでなく、学びや成長のプロセスを重視することが求められます。
新規事業に積極的に投資する
イントレプレナーを育成するためには、新規事業に対する積極的な投資が不可欠です。企業が新たなビジネスチャンスを追求する際、イントレプレナーはその中心的な役割を果たします。
彼らが自由にアイデアを試し、実行に移すためには、資金やリソースの確保が重要です。これにより、イントレプレナーは自らのビジョンを具体化し、実際の市場での反応を得ることができます。
また、新規事業への投資は、企業全体のイノベーションを促進する効果もあります。イントレプレナーが新しいプロジェクトに取り組むことで、社内に新たな知見や技術がもたらされ、他の部門にも良い影響を与えることが期待されます。
成果に応じた報酬制度を作る
イントレプレナーの育成において、成果に応じた報酬制度を設けることも重要です。この制度は、イントレプレナーが自らのアイデアやプロジェクトに対して責任を持ち、積極的に取り組む動機付けとなります。
具体的には、プロジェクトの成功や新規事業の立ち上げに対して、金銭的な報酬や昇進の機会を与えることで、彼らの努力を評価し、さらなる挑戦を促すことができます。
また、報酬制度は単に金銭的なものだけではなく、社内での認知や評価も含まれます。イントレプレナーが成果を上げた際には、社内での表彰や特別なプロジェクトへの参加機会を提供することで、彼らのモチベーションを高めることができます。
イントレプレナーの育成の成功事例
イントレプレナーの育成に成功している企業の事例は、他の企業にとっても参考になる貴重な情報源です。ここでは、いくつかの企業がどのようにイントレプレナーを育成し、実際に成果を上げているのかを見ていきましょう。
株式会社リクルート
株式会社リクルートは、イントレプレナーシップを積極的に推進している企業の一つです。リクルートは、社員が自らのアイデアを基に新たな事業を立ち上げることを奨励し、社内における起業家精神を育む環境を整えています。
特に、リクルートでは、Ringという社内起業制度を導入し、社員が自由に新規事業を提案し、実行に移すことができる仕組みを構築しています。
この制度により、社員は自らのビジョンを実現するためのリソースを得ることができ、成功したプロジェクトは企業全体の成長に寄与することが期待されています。
リクルートの成功事例としては、求人情報サイト「リクナビ」や、転職支援サービス「リクルートエージェント」などが挙げられます。これらのサービスは、社員のアイデアを基にした新規事業が実際に市場で成功を収めた結果です。
参考: Ring | 株式会社リクルート
株式会社サイバーエージェント
株式会社サイバーエージェントは、イントレプレナーシップを積極的に推進している企業の一つです。
特に、同社の「アメーバ経営」という独自の組織運営スタイルは、社員が自らのアイデアを基に新規事業を立ち上げることを奨励しています。この仕組みにより、社員は自分の裁量でプロジェクトを進めることができ、結果として多様な事業が生まれています。
サイバーエージェントでは、イントレプレナーを育成するための環境が整っており、社員が自由にアイデアを発表できる場が設けられています。
また、成功したプロジェクトには資金を投入し、さらなる成長を促す体制が整っています。このような取り組みは、社員のモチベーションを高めるだけでなく、企業全体の競争力を向上させる要因ともなっています。
総合商社各社
総合商社は、国内外で多岐にわたる事業を展開する企業であり、その特性上、イントレプレナーシップの育成が特に重要視されています。
例えば、三菱商事や住友商事などの大手総合商社では、社員が新たなビジネスチャンスを見つけ出し、実行に移すための環境が整えられています。これにより、社員は自らのアイデアを基に新規事業を立ち上げることができ、企業全体の競争力を高める役割を果たしています。
また、総合商社はグローバルなネットワークを持っているため、イントレプレナーが新たな市場やビジネスモデルを開拓する際に、豊富なリソースや情報を活用できる点も大きな魅力です。これにより、社員はリスクを取りながらも、革新的なプロジェクトに挑戦することが可能となります。
ソニー株式会社
ソニー株式会社は、イントレプレナーシップを積極的に推進している企業の一つです。
特に、同社の新規事業創業に関するプログラムは、社員が新しいアイデアを自由に発表し、実現するための場を提供しています。これにより、社員は自らの創造性を活かし、革新的なプロジェクトを立ち上げる機会を得ることができます。
また、ソニーは新規事業に対する投資を惜しまず、失敗を恐れずに挑戦する文化を育んでいます。このような環境は、イントレプレナーが成長するための土壌を提供し、企業全体の競争力を高める要因となっています。
東京急行電鉄株式会社(東急)
東京急行電鉄株式会社（東急）は、イントレプレナーシップを積極的に推進している企業の一つです。東急は、鉄道事業を中心に多様な事業を展開しており、その中で新たな価値を創造するためにイントレプレナーを育成しています。
特に、地域密着型のサービスや新規事業の開発において、社員が自らのアイデアを実現する機会を提供しています。
具体的には、社員が自由にアイデアを提案し、実行に移すための支援を行っています。このプログラムでは、選ばれたアイデアに対して資金やリソースを提供し、実際の事業化を目指すことができます。
これにより、社員は自らのビジョンを形にする経験を積むことができ、企業全体のイノベーションを促進しています。
参考: 東急のイントレプレナー加藤さんが語る、大企業のDNAにある“ベンチャーマインド”を取り戻す意味 ｜ Biz/Zine（ビズジン）
まとめ
イントレプレナーは、アントレプレナーとは異なり、既存の企業の枠組みの中で新しい事業やプロジェクトを推進する役割を担っています。
イントレプレナーを育成することで、将来の経営幹部候補を増やし、優秀な人材の定着を図ることができます。また、事業の幅を広げることで、企業全体の競争力を高めることにもつながります。
