「記憶」という知的活動のOSを再構築する。1%の定義と99%の実装で描く、教育と産業をつなぎ直すエコシステム【モノグサ株式会社 代表取締役CEO:竹内孝太朗氏】

株式会社リクルートで全社営業表彰『TOPGUN AWARD』を最年少受賞したビジネスセンスを持つ竹内氏と、元Googleのエンジニアであり卓越したスキルを有する畔柳(くろやなぎ)氏。異色の二人が創業したモノグサ株式会社は、学習塾領域での展開から始まり、私立学校、公立学校へと導入を広げ、現在は教育機関のみならず、企業の従業員教育領域にも進出し、企業のセールスイネーブルメントや製造現場での技術伝承へと領域を拡張しています。

AIが台頭する現代において、なぜ人間自身の“記憶”に価値を見出すのか。そして壮大なビジョンを支える組織哲学とは。代表を務める竹内孝太朗氏に今後の戦略まで含めて語っていただきました。

【Profile】

モノグサ株式会社 代表取締役CEO:竹内孝太朗氏

名古屋大学経済学部卒。2010年に株式会社リクルートに入社。中古車領域での広告営業に従事し、2011年に中古車領域初及び最年少で営業部門の全社表彰を受賞。2013年からは「スタディサプリ」にて高校向け営業組織の立ち上げ、学習到達度測定テストの開発、オンラインコーチングサービスの開発を行う。高校の同級生である畔柳氏と2016年にモノグサ株式会社を共同創業。

目次

推奨記憶量の爆増と、100年間放置された社会のバグ

── まずは御社の事業内容についてお聞かせください。「記憶を日常に。」というミッションを掲げていらっしゃいますが、現在はどのようなプロダクトを展開されているのでしょうか。

現在の当社を機能的に説明するならば“解いて憶える記憶アプリ”を提供している企業、ということになります。

学習プロセスにおいて多くの人は教科書を読んだり書き写したりしますが、脳科学の観点では「思い出す」という行為こそが長期記憶の定着に寄与するとされています。読む、写すといった行為は、目の前に正解が存在するため、脳が能動的に思い出そうとしません。単に情報をなぞっているに過ぎないのです。

私たちのプロダクト『Monoxer(モノグサ)』は、憶えたい情報をすべて「問い」の形式に変換します。「桃太郎の仲間は何匹?」という問いに対し「3匹だったか、4匹だったか」と思考を巡らせ、思い出すプロセスを起動させるのです。

さらに重要なのが、個人の記憶定着度に合わせて難易度が最適化される点です。未習熟の段階では「2匹か3匹か」という選択肢から始まり、記憶の定着が進むにつれてヒントを減らし、最終的には自由入力で解答できるまで導きます。

機能面では英単語はもちろん、漢字の手書き文字認識、数式のOCR(画像などに含まれる数式を認識してデジタルデータに変換する技術)、日本語の音声認識技術などを自社開発しており、AIによる自動採点を実現しています。現在は、学習塾や予備校の領域でトップシェアを獲得していますが、その理由は『Monoxer』が単なる学習アプリではなく、管理者が“誰に何を習得させるか”を統制するSaaSとして機能している点にあるといえます。

── 教育現場から始まり、現在はビジネス領域へも拡張されています。

はい。2018年のリリース以降、学習塾、私立学校への導入を経て、ここ数年は企業の従業員教育領域へ進出しています。家電量販店における販売員の商品知識習得や、製造・建設現場における作業手順の定着といった、いわゆるセールスイネーブルメントや技術伝承の支援です。

── ここで改めて「記憶を日常に。」について深掘りさせてください。これは具体的にどのような社会状態を目指しているのでしょうか?

少し抽象度を上げてご説明します。本来、人間は生まれつき記憶する能力を持っています。誰に教わらなくても言葉を憶え、生活様式を学習できる。この「自然にできる」という性質は呼吸に酷似しています。空気は教わらなくても吸えますし、たとえば、心臓の鼓動などとは異なり、呼吸も記憶も意識的にコントロールが可能です。

しかし、呼吸と記憶には決定的な乖離があります。それは「呼吸が苦手な人はいないが、記憶に対して苦手意識を持つ人は極めて多い」という事実です。

この背景には、社会環境の変化があります。約100年前と現在を比較した際、人間に必要な酸素量は変化していません。しかし、社会が個人に求める「推奨記憶量」は爆発的に増加しています。義務教育の普及、教科書の分厚さ、外国語学習、そして現代ではAI活用のためのプロンプトまで。「記憶量を増やせば、人生の選択肢が広がる」ということに人類は気づいてしまったのです。

── 確かに、情報量は増える一方です。

問題は推奨記憶量が激増したにもかかわらず、この100年間で「効率的な憶え方」が社会実装されなかったことにあります。憶え方の技術がアップデートされないまま現代に至っているという、社会のバグですね。

コンテンツには対価が支払われますが、記憶の手法自体には投資されず、個人の自助努力に委ねられてきました。その結果「自分は記憶力が悪い」「頭が良くない」という誤った自己認識を持つ人が増えてしまった。

私はよく講演で「ご自身の頭の良さは10段階でどれくらいですか?」と問いますが、多くの方が低く見積もるんです。これは過去のテストの点数など、非効率な学習体験に基づく劣等感のあらわれに過ぎません。

記憶に対するハードルを取り除き、誰もが呼吸をするように当たり前に知識を習得できる状態。それが私たちの目指す「記憶の日常化」です。

1%の「定義」と99%の「実装」という理想的な役割分担

── 非常に本質的なビジョンですが、竹内さんご自身がそこに至るまでの原体験はどこにあったのでしょうか?

遡ると小学3年生の頃です。きっかけは『親に認められたい』という子どもらしい動機でした。 ただ、私の両親は勉強や運動の成績にはなぜか興味を示しません。そこで私は「何と言えば親は喜ぶのか」を観察し、彼らの関心が社会貢献にあることを突き止めました。 そこで『世界を平和にする』と宣言してみたところ、これが最も反応が良かった。当初は親を喜ばせるための手段でしたが、ここからやんわりと私の人生のテーマが決まっていきました。

決定的な転機は中学1年生、2001年のことです。インド西部地震が発生し、親から「世界を平和にするなら、お年玉を寄付しなさい」と促され、当時の全財産に近い5000円を寄付しました。中学生にとっての5000円は巨額です。

後日、その寄付金の使途を調べたところ「緊急避難用のテント」に使われたことを知ります。私は愕然としました。「家屋が倒壊しているのに一時的なテントでどうするのか。生活再建の根本解決になっていないではないか」と。

憤慨しながら根本的な解決策を模索していた時、アジア人として初めてノーベル経済学賞を受賞した経済学者、アマルティア・セン氏の「貧困からの脱却には教育が不可欠である」という論説に出会ったのです。テントではなく教育こそが恒久的な平和に繋がると確信し、30歳になったら教育格差を是正する事業を興そう、と決意しました。自分でいうのも何ですが、早熟ですね(笑)。

── その後、株式会社リクルートへ進まれた経緯は?

当初はNGOへの就職を考えていましたが、諸事情により進路変更を余儀なくされ、就活期間がとうに終了しているにも関わらず門戸を開いてくれたリクルートに入社しました。もちろんビジネススキルを磨くため、という狙いもあります。「30歳での起業」から逆算し、営業力と新規事業開発の機会を求めての選択でした。

配属希望では、あえてリクルートの中で最もプロダクトが弱く、厳しい環境を志願しました。当時、競合サービスに大きく引き離されていた中古車領域の部門です。 完成された強い商品を売るよりも劣勢な商品を売る方が個人の営業力が際立ち、評価されやすいと考えたからです。

一方で、何万人もの猛者がいるリクルートで、新人が気合だけで圧倒的な成果を出すことは難しいです。そこで私は中長期で成果を最大化することを見据え、1年目は種まきに徹しました。 1年かけて仕込んだ案件を2年目で一気に開花させる。この戦略が功を奏し、結果として全社営業表彰『TOPGUN AWARD』を最年少記録で受賞することができました。そして3年目からは本懐であった新規事業開発に異動しました。

── そして、共同創業者である畔柳氏との起業に至るわけですね。

30歳を目前に控え、自身の事業構想を具体化する際、高校の同級生であり、当時Googleのエンジニアだった畔柳に相談を持ちかけました。

当初、私が考案したのは“世界中の単語帳データを集約・共有するプラットフォーム”でした。しかし彼は「情報は共有できても、結局学習者が憶えきれていないことが本質的な課題なのでは?」と鋭い指摘をくれました。

さらに彼は、私の知らぬ間に記憶に関する論文を1000本以上も読破していました。実は「思い出すことが記憶定着に有効である」という学術的知見は2011年頃から存在していましたが、社会実装されていなかった。彼はそのギャップに勝機を見出していたのです。

── 共同創業におけるお二人の役割分担を、ユニークな比喩で表現されていると伺いました。

私はよく“バニラアイス”に例えて話をしています。バニラアイスを成立させる上で、最も重要な要素は何だと思いますか? 

ベースとなるアイスミルクだけでも、美味しいアイスクリームにはなります。抹茶と混ざれば抹茶アイスに、ラムレーズンと混ざればラムレーズンアイスにもなるでしょう。しかしバニラアイスを成立させるには『バニラビーンズ』の香りと定義が欠かせません。

モノグサにおける共同創業者としての関係性において、私の役割はたった1%のバニラビーンズです。畔栁が勝機を見出してくれた「記憶」という領域で起業することを決め、その才能を土台に『記憶の会社である』という定義づけを行いました。そして残りの99%、プロダクトの実体や技術的な基盤、論文の読解から実装まではすべて畔栁というアイスミルクが担ってくれている。

彼がいなければこの事業の実体は存在しませんし、畔栁という才能が「記憶」という領域を明確に定義し、そこに挑む事業にはならなかったと思います。相互補完による完全なパートナーシップは偶然のような必然から生まれる、ということの証左ではないでしょうか。

AIは鼓膜を揺らせない。資本主義のバグを修正する挑戦

── 昨年10月、住友商事株式会社などから大型の資金調達を実施されました。この背景にある戦略についてお聞かせください。

主たる狙いは従業員教育、特に人が前面に立って価値を発揮する業務領域への進出加速です。AIの進化によりホワイトカラーの定型業務は代替されていくでしょう。その一方で、AIが社会に浸透すればするほど、人間に何が残り、何がより強く求められるのかが、より明確になっていくと考えています。

その1つが、人間が人間に対して行う共感獲得、つまり対人業務です。営業や販売といった領域では、単に情報を伝えるだけでなく、相手の意思決定に寄り添い、背中を押す役割が求められます。

例えば商談の場面で、顧客に決断を促す状況を想像してみてください。提案内容がどれほど合理的であっても、最終的に人がリスクを取るかどうかは、「誰から」その言葉を受け取るかに大きく左右されます。有限な時間や制約を共有しながら向き合う人間同士だからこそ、相手の覚悟や本気度が伝わり、心が動くのだと思います。

また私はコミュニケーションの本質は『単に相手の鼓膜を物理的に揺らしているに過ぎない』と考えています。表情や声色といっても、結局は空気の振動です。しかし不思議なことにAIが生成した完璧な論理よりも、生身の人間が『鼓膜を揺らす』ほうに人は共感し、リスクを取る決断をする。 良くも悪くも、人間は人間によって心を動かされる生き物なのです。 

だからこそ、その『揺らす空気』に乗せる情報、つまり話し手自身の頭の中にある『知識・記憶』の質が重要になります。中身のない言葉で鼓膜だけを揺らすのではなく、正しい知識を持って信頼を勝ち取る。そのための土台作りを、私たちは支援したいのです。

建設や製造の現場も同様です。現場作業にはマニュアルには書ききれない臨機応変な判断が存在します。これらを完全にロボット化することは困難であり、人間が担うべき領域として残ります。そこにある膨大な知識や技能の伝承を、私たちのプラットフォームで支えていく方針です。

── 労働市場だけでなく、その先の「消費活動」も見据えているそうですね。

記憶は生産活動のためだけでなく、消費活動、つまり「人生の豊かさ」にも直結します。

例えば京都旅行において、歴史的背景を記憶している人とそうでない人では、見える景色、感じる深度が全く異なります。「ここが応仁の乱の激戦地か」と感動できるのは、その歴史的背景を記憶しているからです。知識を持ち合わせていない対象は、その人の世界において存在しないのと同義です。

動物の生態を記憶してから動物園に行けば、VRのような外部デバイスに頼らずとも、目の前の光景から多くの情報を読み取ることができる。私たちはこれを具現化するため、未就学児向けのMonoxer Junior(モノグサ ジュニア)』の展開を始め、東武動物公園と連携した実証実験なども行っています。

── さらに、「勉強することで対価を得られる」という経済圏の構想もあると伺いました。

これこそが資本主義に残されたバグの修正であり、ミッション達成へのラストワンマイルです。

現状、個人のスキルアップには学費などのコストがかかります。しかし社会全体で見れば、医師や高度人材が増えることは社会的要請であり、利益でもあります。本来、社会が求めている人材になるための学習に対して、個人がコストを払わなければならない構造は非合理的です。

この構造を変えるべく『Monoxer Campus(モノグサ キャンパス)』というサービスを開始しました。大学生がアプリ上で社会に必要な知識を無料で学習し、一定の記憶水準に達すると企業からインターンのオファーが届く。つまり学習努力が直接的なリターンに転換される仕組みです。

若者の行動原理に即したインセンティブ設計を行うことで、経済的な理由による教育格差を解消し、記憶という努力が正当に報われるエコシステムを構築したいと考えています。

苦難も歓喜も分かち合う、50対50の強靭なパートナーシップ

── 創業からこれまでを振り返り、最も困難だった局面、いわゆるハード・シングスについてお聞かせください。

実は、私自身は経営において「辛い」「孤独だ」と感じたことがほとんどありません。

もちろん、創業初期に売上規模に匹敵する7000万円の案件を失注した際は、オフィスに戻る足取りが重かったことを覚えています。あの時はさすがにみんなにあわせる顔がないな……と。しかし、それ以外の局面では精神的な重圧を感じることは稀です。

その最大の要因は、共同創業者である畔柳との関係性にあります。先ほどは、私が1%で畔栁が99%という話をしましたが、経営の意思決定は共同創業・共同代表として対等に行っています。一般的には、意思決定の遅滞を招くとして忌避されがちな構成ですが、私たちの場合はこれが「孤独の解消」と「責任の分有」として機能しているんです。苦難も歓喜も完全に二等分できるパートナーがいることは、経営者にとっては計り知れない強みです。

── 非常に稀有かつ理想的なパートナーシップですね。現在、組織は170名を数えるまでになりましたが、現時点ではどのような人材を求めていますか?

ありがとうございます。おかげさまで、順調に組織規模は拡大してまいりました。しかし、事業の成長に対し、まだまだ人材が不足していると感じています。

求める人物像について、スキルセットは当然重要となりますが、何よりも「記憶を事業にする」という当社の独自性に知的好奇心と可能性を感じてくれる方をお迎えしたいですね。

正直に申し上げれば、単純な事業成長率や待遇条件だけで比較すれば、他にも優れた選択肢はあるでしょう。世の中には素晴らしい企業が数多く存在します。しかし、記憶のプラットフォームを構築し、人類の知的OSをアップデートしようとしている企業は世界でも私たちだけです。この未踏のブルーオーシャンに挑むことに純粋な興奮を覚える方こそが、当社のカルチャーに合致します。

── Professional Studioにはどのような感想を抱いていらっしゃいますか?

私はCEOの役割の一つは「自社を魅力的にプレゼンテーションすること」だと考えています。採用面接も商談も、相手を楽しませ、鼓膜を揺らすエンターテインメントであるべきです。そんな中、Professional Studioさんは私が語らずとも当社の複雑な事業構造や魅力を深く理解し、的確に候補者へと伝達してくれるパートナーだと認識しています。

また決して数合わせの紹介ではなく、私たちの組織課題を解決しうるキーマンをピンポイントで引き合わせてくれます。実際に、紹介いただいた方々の選考通過率やカルチャーマッチ度は極めて高く、組織の中核を担う人材となってくれています。

── 最後に、読者へのメッセージをお願いします。

モノグサは極めて真面目な学術的知見をベースに、人類の可能性を拡張するという壮大な実験を事業として行っている会社です。

「記憶」という切り口一つで教育格差の是正から労働生産性の向上、さらには観光やエンターテインメントの質的転換まで、あらゆる産業に介入できるポテンシャルを持っています。

既存のビジネスモデルの最適化ではなく、社会の前提そのものを書き換える仕事に興味がある方、ぜひ一度お話ししましょう。私が責任を持って、知的好奇心が刺激される楽しい時間を提供いたします。


「テントではなく教育を」「バニラビーンズとアイスミルク」「鼓膜を揺らす」。竹内氏から放たれる一つひとつの言葉には、物事の本質を鋭く射抜く知性と、それを誰もが理解できる形に翻訳する卓越した表現力が共存していた。

記憶という人間の根源的な能力を再定義し、資本主義の構造的欠陥にまでメスを入れようとするモノグサ株式会社。その挑戦を支えているのは、99%の実装を担う天才エンジニアへの絶対的な信頼と、共同創業・共同代表として経営の意思決定を行う対等なパートナーシップである。

AI時代だからこそ、人間が本来持つ「憶える」という機能に回帰し、その価値を最大化する。同社が描く「記憶のプラットフォーム」は、これからの社会における新たなインフラストラクチャーとなる予感を強くさせるものだった。 モノグサが「記憶」を日常にしたとき、世界はどのように変わるのか。その景色を、ぜひ内側から目撃してみてほしい。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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