業界No.1のその先へ──「特定領域」から「全産業」へ展開する、バーティカルSaaS・マルチプロダクト戦略の勝算【アトミックソフトウェアCEO:畠中 翔一氏/ALL STAR SAAS FUND:神前 達哉氏】

2026年2月、クリニック向けオールインワンSaaSで圧倒的なシェアを誇る『株式会社メディカルフォース』は『アトミックソフトウェア株式会社』へと社名を変更しました。医療領域での成功を確立した今、なぜ彼らは社名を変え、複数産業への参入を決めたのでしょうか。

今回はアトミックソフトウェアCEOの畠中氏と、創業期から伴走するALL STAR SAAS FUNDの神前氏へのインタビューを実施。事業の独自性、現場のリアリティ、Professional Studioを通じたハイレイヤー採用が握る未来への鍵について、経営者と投資家双方の観点から語っていただきました。

【Profile】

アトミックソフトウェア株式会社 代表取締役 CEO 畠中 翔一 氏 

慶應義塾大学理工学部卒、慶應義塾大学大学院理工学研究科中退。学生時代からインフラの構築やWebアプリの立ち上げを多数こなす。2020年11月に株式会社メディカルフォースを設立し、現在の『Medical Force』をフルスクラッチで開発。2025年1月、同社代表取締役CEOに就任。開発の傍ら、深層学習を用いた研究が国際学会に採択されるなど、機械学習(AI)や最先端の技術にも精通する。

ALL STAR SAAS FUND  パートナー 神前 達哉氏

和歌山県出身。東京大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社。法人営業を経て、新規事業開発室に異動。海外スタートアップとの日本向けB2B SaaSの事業化を果たし、セールス組織開発を担当。その後カスタマーサクセスの責任者として事業成長を牽引。2021年2月よりALL STAR SAAS FUNDのパートナーに就任。

目次

「医療」から「全産業」へ。一元管理が切り拓くSMB市場の勝算

── 『メディカルフォース』という業界内で確固たる地位を築いた社名を捨て『アトミックソフトウェア』へと変更された背景にはどのような意図があったのでしょうか?

畠中:最大の理由は、私たちが「医療だけの会社」ではなく「優れたソフトウェアを連続的に生み出す会社」として認知されたいと考えたからです。

創業事業であるクリニック向けオールインワンSaaS『medicalforce』は順調に成長しましたが、実は創業から1年半が経ち、会社の生存が見えてきた2022年4月の時点で、すでに複数産業への展開は決めていました。現在は警備業界向けの『警備フォース』も展開しており、今後も第三、第四の産業へ参入していきます。

その際、社名が『メディカルフォース』のままだと、医療以外の業界のお客様に「なぜ医療の会社が?」と違和感を持たれてしまいますし、採用候補者の方々にも「医療系には興味がない」と選択肢から外されてしまう可能性があります。事業領域を限定せず、社会全体へインパクトを与えるソフトウェア企業としての実態に合わせて、社名を刷新しました。

── 一般的なSaaSビジネスでは「特定の業務に特化する」が主流です。その中で、御社があえて複数産業へ展開し、かつ「一元管理」にこだわる独自性はどこにあるのでしょうか?

畠中:業務のリアリティに即している点です。大企業であれば、自社の業務にあったシステムを開発して導入できます。しかし、日本に多く存在する中小企業群のなかで個別に開発する予算をとれる企業はまれでしょう。複数のSaaSを導入した結果、データの転記作業が膨大になり、結局エクセルや紙での管理に戻ってしまうようなケースが後を絶ちません。

だからこそ、私たちは「一つのソフトウェアですべてが完結する」ことにこだわっています。予約、カルテ、会計、CRM、すべてが一元管理されていれば、転記の手間もなく、データの集計も自動で行える。コストや学習リソースの面でもSMBにとっては「これ一つあればいい」というAll-in-Oneのプロダクトが最適解なのです。

── 競合他社も存在する中で、後発として参入する際の「勝てる市場」の見極めはどのように行っているのでしょうか?

畠中:独自の選定基準を設けていますが、特に重視しているのは「既存のソフトウェアが存在するが、満足度が低い市場」です。

20〜30年前から使われているオンプレミス型のシステムがシェアを独占している業界もあります。そこには確実にソフトウェアへのニーズがある。私たちは先人へのリスペクトを持ちつつも、現代の技術で「今の10倍使いやすいソフトウェア」を提供します。

SMBのお客様は意思決定が合理的で「業務が楽になるか」「コストが見合うか」で判断されるため、プロダクトの力さえ圧倒的であれば、リプレイスは十分に可能なのです。

── 技術的な側面での難易度についてはいかがですか? 異なる業界へ次々と展開するには、高い開発力が求められると思います。

畠中:おっしゃる通り、バーティカルSaaSの開発には特有の難しさがあります。それは「顧客の業務に徹底的にフィットさせる」という点です。

例えば、会計機能を作る際、一般的なロジックでは「予約内容が確定しないと会計は作れない」となります。しかし、自由診療クリニックの現場で業務を深く観察すると、確定前であっても仮の会計を作って準備しておいた方が、オペレーションがスムーズになる場合がある。そうした業界独自の業務フローを理解し、最もお客様にとって使いやすい形でソフトウェアに落とし込んでいく必要があります。

さらに難しいのは、3年後、5年後には「最適な機能のあり方」が変わる可能性があることです。私たちが定義した仕様を、将来的に自分たちで壊して作り直せるような、柔軟で変更に強いアーキテクチャを初期段階から設計しておく。ここには非常に高度な技術力と、3年先、5年先を見据える想像力が求められます。

投資家も唸った“テトリス”の解消と10倍速の進化

──なかなか進まない日本の中小企業のDXを大きく前進させる取り組みにも見えます。 

畠中:ありがとうございます。社会への提供価値としては、DXの恩恵を受けられていない産業にテクノロジーを届けることで、働く人の負担を軽くし、事業に関わる人が本当に集中したい業務に挑戦できる世界を作っていきたいと考えています。

日本の産業の中にはDX化を牽引するプレイヤーが不在であったり、高額なシステムのイニシャルコストを支払う負担が大きく導入障壁になっているなど、現在のDX化の延長線上では年単位の遅れが出てしまう産業もあります。

そこに対して一元管理のソフトウェアを届けることで、DX化を一気に進めることができ、また一元管理されたデータが集まることで産業全体の“見える化”が進み、新しいビジネスの流れやシナジーを生み出せると考えています。

── 創業初期から伴走されているALL STAR SAAS FUNDの神前さんにお聞きします。最初の出会いはどのようなものだったのでしょうか?

神前:実は、創業間もないタイミングで一番最初にお会いした時は、投資を見送らせていただいているんです。

しかし、その時から畠中さんたち創業チームには強烈な「野心」と物事を深く考える「思考力」がありました。お断りした後も定期的に壁打ちをさせていただいていたのですが、彼らは私のフィードバックを即座に吸収し、ものすごいスピードで進化していったのです。

── その後、投資を決断された「決め手」は何だったのでしょうか?

神前:再会した際、チームとしての成熟度はもちろんですが、何より「顧客の反応」が劇的に良くなっていたことに衝撃を受けました。

特に印象的だったのが、あるクリニックの受付担当の方のお話です。そのクリニックでは、予約枠と、稼働できる看護師、そして施術室のベッドの空き状況をパズルのように組み合わせる業務があり、それを現場では“テトリス”と呼んでいました。熟練のスタッフにしかできない職人技になっていて、大きなストレス源だったそうです。そこに『medicalforce』を導入したことで、この複雑な“テトリス”が一瞬で自動化され、解消された。「これがないともう仕事が回らない」と言わしめるほどのプロダクトを作り上げていたんです。

── まさに現場のペインを解消するプロダクト力ですね。

神前:はい。私はエンジニアではないのでコードは書けませんが、投資家として「機能開発のスピード」と「それが顧客価値にどう反映されるか」を見ています。

彼らは半年後には機能が3倍、1年後には10倍になっているようなスピード感で開発を進めていました。しかも、それが使いにくいという不満にならず、顧客体験を向上させ続けている。彼らの持つ「顧客の業務を深く理解し、それを爆速でソフトウェアに昇華する力」があれば、警備業界だろうと建設業界だろうと、どの産業でも再現可能だと確信しました。それが投資の最大の理由です。

── 畠中さんから見て、神前さんはどのような存在ですか?

畠中:創業間もない、何者でもなかった私たちに対して、本当に丁寧なフィードバックをくださった時のことは忘れられません。

現在は取締役会にも参加していただいていますが、短期的な数字の話だけでなく「5年後、10年後に会社の価値を上げるためにはどうすべきか」という視座の高い議論をさせてもらっています。目先の成長にとらわれず、本質的な経営課題に向き合えるのは、神前さんとの信頼関係があるからです。

── 投資家として、現在のアトミックソフトウェアの成長ポテンシャルをどう見ていますか?

神前:自由診療領域はコロナ禍を経て一般化し、市場自体が伸びています。しかし、それ以上にアトミックソフトウェアが持つ「一元管理」のコンセプトは強力です。

予約、カルテ、決済、CRMを一気通貫で提供することで、クリニックの経営効率は劇的に上がり、患者さんの体験も向上する。正直、「導入しない理由がない」レベルのプロダクトになっています。

さらに、AI技術の活用によって開発コストが下がり、ユニットエコノミクスも良くなっている。日本の中小企業DXにおける「ラストピース」を埋める存在として、時価総額で数千億円、いや1兆円を目指せる器だと本気で思っています。

10年で一生分の成長を。0→1と10→100が共存する組織のリアリティ

── 組織やキャリアについてお伺いします。アトミックソフトウェアで働くことの魅力、他社にはない面白さはどこにあると考えていますか?

畠中:最大の魅力は、社内に「0→1」「1→10」「10→100」という全てのフェーズが常に存在し続けていることです。一般的なスタートアップでは、会社が成長してフェーズが進むと、創業期の「0→1」が得意だったメンバーが居場所を失ってしまうことがあります。これは非常にもったいないし、悲しいことです。

私たちは次々と新しい産業へ参入していくため、常にどこかで新規事業の立ち上げ(0→1)が行われています。一方で、主力事業であるメディカルフォースは拡大期(10→100)に入っている。つまり、自分の得意なフェーズを選んで挑戦し続けられる環境があるのです。

── ひと言であらわすと、どういった組織なんでしょうか?

畠中:「顧客・業界へのディープダイブ× 高い自律性とプロダクト思考 」のある組織、というのが正しい表現だと思います。

プロダクト開発の中心には、顧客の業務や感情、日々の負荷を実態として把握する姿勢があります。ゆえに単なる要件収集ではなく、現場で何が起きているのかを自分たちの課題として引き受けることを重視しています。プロダクト機能を設計する際に、機能の必要性や利用場面を、開発者自身が即座に説明できるレベルまで理解を深めることが求められるのです。

また現場理解は特定の職種の役割ではなく、プロダクトに関わる全員の責務です。仕様を受動的に受け取る開発体制ではなく、自ら課題を捉えにいく姿勢が組織文化として根づいています。

このような深い理解を起点とするため、初期開発の精度が高く、手戻りが少ない点も特徴のひとつ。作るべきものが明確になり、意思決定と実装のスピードが自然と高まるというメリットがあるんです。

── 具体的なキャリアパスの事例はありますか?

畠中:例えば、インサイドセールスとして入社し、その後、決済事業の立ち上げを経験し、現在は警備事業の責任者を任せようとしているメンバーがいます。

普通なら10年かけて経験するようなキャリアの変遷を、ここなら数年で経験できる。当社では「10年で一生分の成長を」という人事ポリシーを掲げていますが、一通り経験した後、社内で別の事業の「二周目」に挑戦することも可能です。上が詰まってポストがない、という状況とは無縁ですね。

人事ポリシーの背景にはビジョンに共感してくれる仲間と長く共に成長し、ビジョンを実現したいという考えがあります。この過程で得た成長をもとに個人には、社内はもちろん社外においても、やりたいことにチャレンジできるような豊かなキャリアを築いてほしいんです。そのための施策として、評価のタイミングでマネジャーと、 短期(半年~1年)・長期(アトミックソフトウェア在籍中)・超長期(キャリア全体)のキャリアビジョンを話し合っています。

── そのような成長機会の多い環境において、エンジニアとビジネスサイドの連携はどうなっているのでしょうか?

畠中:先ほども少し触れましたが、当社ではエンジニアが直接現場に出ることもあります。セールスやCSが顧客の要望を聞き、それをまとめてエンジニアに伝えるケースも多いですが、それでは「言われたものを作るだけ」になりがちですし、エンジニア自身が業界に関する解像度を高めることが難しい。

エンジニア自身が顧客の業務を肌で感じ、泥臭く理解する。そうやって作られた機能だからこそ、現場で「使える」ものになるのです。

── 働く環境で特筆すべき点などありましたら教えていただけますか?

畠中:基本的なワークスタイルとしてはコアタイムなしのフルフレックスを導入しています。個人とチームが最もパフォーマンスを発揮できる時間帯で業務に取り組んでもらっています。

その他に出社と在宅を組み合わせたハイブリッドワークも用意しています。月曜と金曜が出社日で、それ以外は社員の裁量で働く場所を選べます。

出社の際にはコミュニケーションを取りやすくするために「すいすい飯」という制度を策定。社員同士の食事会補助制度なのですが、“すい”曜日と木曜日にコミュニケーションを”すい”進し、仕事を”すいすい”進められるようにしたいという思いのもと、ランチ1人1,500円、ディナー1人5,500円を支援しています。また月額3万円を上限に家賃を補助する制度なども用意し、できるだけ長く、働きやすさが継続する施策の整備に力を入れていきます。

「狂った哲学」で時価総額1兆円への壁を越える

── 一方で、組織としての課題も感じていらっしゃいますか?

畠中:組織が大きくなる速度が速く、ミドルマネジメント層や、事業を牽引するハイレイヤー層が不足しています。今まさに、外部からプロフェッショナルな知見を持った方を迎え入れる必要性を感じています。

── そこでProfessional Studioを通じたハイレイヤー採用が重要になってくるわけですね。

畠中:はい。経験豊富な方がリーダーになると、その部署の当たり前基準が高くなり、自走する組織となり、成果を出してくれる。Professional Studioさんには、そういった「事業を変えるインパクトを持つ人材」を繋いでいただいており、非常に感謝しています。

Professional Studio 小此木:ありがとうございます!アトミックソフトウェア様は、複数産業×複数フェーズが同時並行で進む、極めて稀有でエキサイティングな環境です。事業家を目指すハイレイヤーの方にとって、これほど魅力的な舞台はそう多くありません。私も「これは」という方と出会うと、まず最初にアトミックソフトウェア様に合うか合わないか、を考えるようになっています(笑)。

── 神前さんから見て、今アトミックソフトウェアに必要なのはどのような人材ですか?

神前:二つの観点があります。一つは「ファイナンスと投資の視点を持てる人材」です。

キャッシュフローが出るようになった今、その資金と外部調達をどう組み合わせ、どこに投資すれば企業価値が10倍、100倍になるか。この財務戦略を描ける人材が加われば、成長の桁が変わります。

もう一つは「質の高い営業」です。生成AIの時代だからこそ、人間による高度なソリューション営業の価値は高まっています。希少価値の高いトップセールスがあと10人、20人いれば、それだけであらゆる業界を席巻できるポテンシャルがあります。

── 最後に、今後のビジョンをお聞かせください。アトミックソフトウェアはどこを目指すのでしょうか?

畠中:直近の目標は、SaaS単体では20〜30億円と言われる市場規模の天井を、周辺事業とのシナジーで突き破ることです。そして、警備業界やその先の産業でも成功を再現し、「アトミックソフトウェアが参入すれば業界が変わる」という事実を証明したい。「顧客への深い理解」と「数字への強さ」。この二つを武器に事業を展開していきたいです。

神前:彼らには、200億、300億というレベルではなく、桁を二つ上げるような目標を持ってほしいですね。複数のニッチ産業を積み重ねて、時価総額1兆円を超える。これはある種「狂ったような哲学」が必要な挑戦です。しかし、ファイナンスの整合性を合わせながら、人材育成も諦めずにそれを成し遂げようとしているのがアトミックソフトウェアの面白さです。

株主として、その「狂気」とも呼べる高い志を全力でサポートしていきますし、そこに共鳴してくれる野心的な方に、ぜひ参画していただきたいですね。


「医療」という枠組みを超え「アトミックソフトウェア」として新たなスタートを切った彼ら。その視線の先にあるのは、複数のニッチトップを積み重ねることで到達する、前人未到の巨大なマルチバーティカルに事業を展開する姿だ。「0→1」を愛する開拓者にとっても、「10→100」を極めるプロフェッショナルにとっても、ここには常に枯渇することのない挑戦のフィールドが広がっている。

「10年で一生分の成長」を約束するこの場所で、「狂った哲学」の一部となり、産業構造を変える瞬間に立ち会う──そんなビジネスキャリアは誰もが味わえるものではない。だからこそ我こそは、という方のチャレンジに期待する。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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