今回は、2023年3月に創業した巨大言語モデルソフトウェア開発を行うSpiral.AI株式会社の起業までの流れについて、Spiral.AI株式会社CEO佐々木雄一氏、創業出資したインキュベイトファンド株式会社代表パートナー村田祐介氏、佐々木氏から相談を受けてインキュベイトファンドを紹介した弊社エージェントの大庭崇史に話を聞きました。
起業に至るまでの心構え、ファンドに相談する際の準備、エージェントに相談した方がよいパターンなど、起業か転職か迷われている方の参考になる情報を、事例を通じて話していただきました。
EQに振り切ったAIを開発するためにSpiral.AIを起業
Spiral.AI 佐々木雄一 CEO
【Profile】東京大学大学院理学系研究科物理学専攻卒業。理学博士。ビッグデータ分析と機械学習が専門。スイスCERN研究所にて、ブラックホール研究やヒッグス粒子・超対称性粒子の探索に携わる。ビジネスを通して技術を広め、世界を大きく変えたいという思いから、マッキンゼーに入社。クライアント企業の戦略策定等を支援。XCompass株式会社にて研究開発をリード。画像・映像・文書・音声の深層学習モデルを開発。ニューラルポケット社(東証グロース)の初期メンバー・CTOとして、AI開発と社会実装を主導。AI開発におけるPDCAサイクルを武器に、全国あらゆる環境下で安定稼働するAIシステムを構築。2023年よりSpiral.AI社を立ち上げ。
ーーはじめに佐々木さんが起業したSpiral.AIの事業内容からお伺いできますでしょうか?
佐々木:大きく2つ、LLM(大規模言語モデル)を活用したアプリケーションを提示することと、特定の領域に特化させた言語モデルを作ることに取り組んでいます。
まずアプリケーションの方から話をしますと、2023年11月現在は、言語モデルは何にでも使える代わりに、具体的なユースケースが提示できていないという状況だと考えています。我々はそのユースケースの提示の1つとして、キャラクター性を持たせたAIを開発しています。現時点で提供させていただいているのは、タレントの真島なおみさんと疑似的な会話コミュニケーションを体験できる「Naomi.AI」ですが、今後はたとえば亡くなってしまった人と会話できるサービスを提供できるようになるかもしれません。
サービスのもう1つが、特定の領域に特化させた言語モデルを作るというところです。現在さまざまな企業がLLMの活用に取り組んでいますが、精度が足りなくて実用化に至らない企業が多くあります。そこで、我々はそういった企業の駆け込み寺のような立ち位置で、LLMの精度向上を支援するサービスも展開しています。
インキュベイトファンド株式会社 村田祐介 代表パートナー
【Profile】2003年にエヌ・アイ・エフベンチャーズ株式会社(現:大和企業投資株式会社)入社。主にネット系スタートアップの投資業務及びファンド組成管理業務に従事。2010年にインキュベイトファンド設立、代表パートナー就任。2015年より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会企画部長を兼務。その他ファンドエコシステム委員会委員長やLPリレーション部会部会長等を歴任。2023年同協会理事就任。Forbes Japan「JAPAN’s MIDAS LIST(日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキングBEST10)」2017年第1位受賞。
村田:Spiral.AIで作ってるものの面白いところは、いつも佐々木さんが使う表現で言うと、IQに振り切ったものじゃなくて、EQに振り切ったものを作るという考え方でやっていることです。
現時点でLLMは、情報を正確に伝えられるようになってきてはいますが、面白く伝えられるようにはなっていません。GPT-4からGPT-5に向けてAGI(汎用人工知能)化が近づいてという世界観の中で、より正確な解を出すことはできるようになると思いますが、無機質なものになってしまう可能性は十分あるなと。
人と話していて、話が面白いかどうかや、ついつい話を聞いてしまう何かというのは、定量的になかなか測りづらいものですが、言語モデル化していくことで定量化できつつあります。面白い話の要素として重要なのは、抑揚なのか、人を引き込むためのキーワードの使い方なのか、話の順番なのか、という点の解明に今トライしているところですね。
佐々木:そうなんですよね。私がマッキンゼーに入った時に、すごく喋り方のうまい人がいるわけですよ。同じ内容、同じスライドを話させても、私なんかが喋っても全然刺さらず。
言ってることは正しいと思うのですが、やっぱり刺さるのは話のうまい人で。喋り方1つとっても深掘りポイントって結構あって、オープンAIとかビック・テックはまだそこのポイントに目をつけられてないのではないかと思います。我々はそちらに目を向けていきたいなと。
村田:真島なおみさんの「Naomi.AI」を実際触ってもらうと、機械が喋ってきてると思えないレベルで、すっと頭に入ってくるんですよ。Twitterのタイムラインをぱっと見た感じと同じ印象で音声で語りかけてくるのを体験してもらうと、無機質ではなく、頭に入ってきやすい何かというのがわかるかなと思います。
佐々木:日本的AIを作りたいという言い方もたまにするのですが、海外、とくに欧米だとサイエンスを育んだ国なのでどうしても還元主義的になりがちで、日本のもう少しおもてなし文化に寄っている側面を出していきたいなと。
おもてなしの心とか、微妙な所作・作法に対して正面から向き合うことは、人間性の再発掘だと思っています。
起業に至るまでのキャリア【研究者→コンサル→スタートアップ】
ーー次に佐々木さんの起業に至るまでのキャリアをお伺いしたいです。
佐々木:大学院を卒業してからは、スイスのCERN研究所で研究者をしていました。専門は素粒子物理学で、全然ビジネスと関係ない業界でやっていて、たまたま私が在籍していた時にヒッグス粒子という粒子を発見して2013年のノーベル賞になったという、1番エキサイティングな時代を過ごさせてもらいました。
その後はもっと自分に負荷をかけたいという、精神的ライザップみたいな感じを求めて、 自分がこれまで全くやっていなかったビジネスのやり方を勉強してみようと思い、マッキンゼーにご縁をいただいて入ったという形ですね。
マッキンゼーでビジネスの勉強させていただいて、いったん技術とビジネスを経験させてもらったので、次はそろそろ自分の夢を追いかけようということで、AIの開発をしているXCompass株式会社に転職しました。
ーー現在の起業に繋がるAIの世界に足を踏み入れたわけですが、元々AIに興味があったのでしょうか?
佐々木:AIに興味を持ち始めたのは小学校5年生で、その時にAIの専門書を買いました。工学部の学生が読むような本なので、図書館に行ってわからないことを調べて、というのがAIとの出会いです。そこからずっとAIに携わりたいなと考えていました。
ーーAIの専門書を読んでいる小学校5年生はなかなかいないと思うのですが、そもそもAIの専門書を読もうと思ったきっかけはなんなのでしょうか?
佐々木:原体験はやっぱりドラえもんですよね。ドラえもんって、なんでもやろうと思ったら面白いことどんどんできるじゃないですか。そういうのに憧れてましたね。
それと当時から自分の知らないことが気持ち悪いと思うタイプで。宇宙とか深海とか色々興味はあったのですが、なかでも一番知らなくて気持ちが悪かったのが脳で、人間の脳はすごくすごく未知の存在だけれども、目のすぐ5センチ後ろにあるんですよね。でも、なんでこの脳の中身ってわかんないんだろうというのがずっと気になっていて。
脳の勉強をする人には、脳を切り刻むタイプの人たちと、シミュレーションで作る人たちの2パターンがあって、自分の性に合っているのは計算幾何学みたいな分野だと思って、たしか本を手に取ったと思います。
ーーそういった原体験があって、技術とビジネスの経験も積んだので、自分の夢であるAIの開発に挑戦しようと。
佐々木:はい。私がマッキンゼーにいる間に、徐々にAIがビジネスになり始めていて、いよいよビジネスでAIをやってみたいなと思い始めたのが2016年ぐらいです。
そこから先ほどお話ししたAI開発の会社を挟んで、私の前職であるニューラルポケットに2018年にCTOとしてジョインしました。
ニューラルポケットはマッキンゼー時代の上司だった重松路威さんが創業した会社で、路威さんに声をかけてもらって入社しました。
マッキンゼーにいた時に私が転職しますと路威さんに言った際、「転職することはわかった。それはいいから、1週間一緒にディープラーニングのデモ作ろうよ」と言われて、車を運転している時に前の車を検知したり、歩行者を検知したりするデモを1週間くらいで作りました。ニューラルポケットの事業に近いことを事前にしていたので、お互い信頼感を持って、これからどういうことをやるのかわかった状態でスタートできたのは大きかったなと。
ーーその後ニューラルポケットは、2020年8月に創業から2年7ヵ月という早さで上場するわけですが、自身でスタートアップを起業しようというのはいつ頃から考えられていたのでしょうか?
佐々木:私の家は商人の家系で、おじさんたちが自分で商売をしているのを見て、いいなぁとはずっと思っていました。起業自体は大学院時代から考えてはいて、でも当時は自信がありませんでした。CERN研究所を辞めて社会人経験なしに起業したとしても失敗するなと思っていて、そのあたりの自信をつけないと起業できないだろうなと当時は思っていましたね。
現時点でもまだ全然足りないところは多いのですが、最低限できるような土壌は整ってきたかと思って、2023年の3月にSpiral.AIを起業した、という流れです。
転職エージェントへの相談を経て起業へ
Professional Studio株式会社 大庭崇史 Manager/Hardtech Talent Studio事業責任者
【Profile】新卒でヤマハ発動機にてエンジン等の開発に従事。その後、ispaceで宇宙探査機開発、A.L.I.Technologiesでエアモビリティ本部の副本部⻑として製品開発、事業開発に従事。アクセンチュアのシニアマネージャーを経て、2022年3月よりProfessional Studio株式会社参画。
ーーSpiral.AI社を起業する前に大庭さんに相談をしたと伺っているのですが、そのあたりの経緯を教えていただけますか?
大庭:Professional Studioは基本的にはエージェントという形で人材紹介をしているのですが、私自身が元々ディープテックの世界の人間だったので、シンプルにディープテック領域の面白い人とか、 すごい人と会いたいと思っていて、色々なご縁があったなかで佐々木さんと繋がる機会があってお話しをさせていただきました。
佐々木さんはスイスのCERN研究所を出ているという、日本人だと他にいないようなレベルの技術者ですし、ニューラルポケットはもちろん知っていましたが、間にマッキンゼーも挟んでと、まさにビジネスと技術の両方を腰を据えてやってこられたところに一番興味を惹かれました。
ディープテック領域で、今おっしゃっていただいたAIはもちろんなのですが、宇宙やロボットといった他の分野にもご興味があるということで、いろんな企業の方と一緒に会ったり、気軽にディープテック領域の企業を色々ご紹介したり、話したりしていました。
その流れの中で、提携させていただいているVC(ベンチャーキャピタル)さんでもディープテック領域にとくに強いインキュベイトファンドさんが浮かんだので、「こういうすごい人いるんだけど」という話をインキュベイトファンドさんにしたところ、村田さんがお会いしたいという話になって、お繋ぎさせていただいたという流れです。
ーー佐々木さんから見て、大庭さんはどのような第一印象だったのでしょうか?
佐々木:技術をよくご存知だなって本当に思いましたね。技術をわかっていない方だと、専門用語を使ってもわかってくれるのかなって、こっちもブレーキかかっちゃうじゃないですか。でも、大庭さんはもう何言っても大体ご存じなので、思いの丈を全部ぶつけられてスッキリしました。
大庭:私もそうでした。量子コンピューターの通信装置をやってる会社があるんですけど、ってそれで話が通じて。
ビジネスモデルとかそういったところはもちろんお話させていただきましたが、技術的な部分は詳しく話さなくても、こういうビジネスなんですねと察してくれたりするぐらいで。
ーー今回のように起業候補者をファンドに紹介するということはよくあることなのでしょうか?
大庭:我々は起業支援をメインでやっているわけではないので、起業に至るのはよくあるケースではないのですが、元々インキュベイトファンドさんとは、転職の文脈で「こんないい人がいるのですが、投資先で活躍できる可能性はないですか?」というやりとりを日常的にやらさせていただいていました。
人の人生、キャリアの支援をするというのは、転職もあれば、現職残留もあり、フリーランスになることもあれば、今回のように起業ということもあると思っているので、こういった形で起業に至るのは非常によい流れだったなと思っています。
ーーファンド視点では、こういったケースはよくあることなのでしょうか?
村田:前提としてインキュベイトファンドの説明をさせていただきますと、私たちは起業家と一緒にゼロから会社を立ち上げることに特化したVCで、他のVCのように伸びてるスタートアップを見つけてきて、バリエーションをつけて投資をするということを基本的にはしていません。
起業する前の起業家、もしくは起業したてのスタートアップの経営者とお話をして、その方が持っているアイデアを一緒にブラッシュアップしたり、逆に我々自身が持っているアイデアや市場の仮説をぶつけさせていただいたりするなかで、一緒にやった方がうまくいくとお互いに考えられた時に初めてディールがスタートする、という考え方でずっとやっているVCです。
今までたくさんの会社の創業に関わってきてるのですが、今回のようにエージェント・ヘッドハンターからのご紹介というケースもたびたびありますし、出資先からもう1回起業するというケースもあれば、研究室とか大学とかを切り出してスタートするケースもありと、様々なケースがあります。
ーー多くの方とお会いされていると思うのですが、投資するしないの判断はどういったところでされているのでしょうか?
村田:私の場合、説明コストがお互い低いかどうかですね。これをやろう、と言った時の説明コストがお互いに低い方が、よいスタートを切れると思います。
すごく優秀な人と話しても、どうしても噛み合わない時ってあるじゃないですか。その人同士が優秀であってもそうでなくても、人間そういうものだと思うので。
もう5手先10手先まで、この人が何を考えてるのかということを想像しながら話ができる瞬間って、たぶん多くの人にある経験じゃないかなと思っていて。それが、親友になったりするパターンとか、一生のお付き合いになったりするパターンってあると思うんですけど、その瞬間がピタッとくると、やることのイメージがどんどん醸成されて、もうすぐにスタートしようとなるという。それが今回、佐々木さんとの出会いで同じことが起きたんじゃないかなと。
ーー初回面談時からそういった相性の良さを感じられていたのでしょうか?
村田:私はそうですね。佐々木さんとの初回面談の数週間前に会社のパートナー全員でシリコンバレーに視察に行っていて、向こうの起業家、投資家たちと話をした時に、大規模言語モデルと生成AIのマグマが一気に噴き出した印象を受けました。
例えるなら新しくインターネットができた、スマートフォンができたのと同じような、産業革命が起きたという感覚で捉えている方がすごく多くて、その高い熱量を帯びて帰ってきて、そのまま佐々木さんとお話しして、「なんで起業か転職かで迷ってるんですか。すぐに起業しましょう。言語モデル作りに行きましょう」という話を、その時に結構早い段階からした記憶があります。
そこから2・3週間に1回ぐらいのペースで、大規模言語モデルがどういった変革を起こせるのか、自分だったら何をやりたいのかという話を、ひたすら、壁打ちをお互いし合うみたいなことをやっていました。
本当にタイミングがこう、世の中の大規模言語モデルをめぐるマーケットが、まさに火を噴き始めたタイミングで、素晴らしい出会いができたのがやっぱり縁で。それが半年でも前なのか後なのかずれていたら、一緒にやろうということになってなかったかもしれないですよね。どういう熱量のタイミングで会えるかという運の要素も正直あるのかなと思うんですけど、佐々木さんと出会ったタイミングは最高にいいタイミングだったなと。
ーー佐々木さんから見て、初回面談時はどのような印象だったのでしょう?
佐々木:はじめはめちゃくちゃ緊張してお会いしました。ネットで検索すると、すごいご経歴ばっかりじゃないですか。
当時は起業したい気持ちも半分、建前上は転職も考えてみたいな、そういう微妙な感じだったので、もうある意味、村田さんに起業しようって言ってもらいたくてしょうがなかったぐらいの感じで、あえてぶつけに行かせていただいたというのがあります。
スライドを作って私のやりたいことを話にいったのですが、起業しようという方向で言っていただけたのでありがたかったなと。
村田:佐々木さんが何をやりたいのかという話をした時に、私がシリコンバレーから持って帰ってきた熱量と同じような話をしているので、一発で話が盛り上がったのを覚えています。
ーーそこから事業アイデアを固めていくことになると思うのですが、事業アイデアが固まったのはいつごろなのでしょうか?
佐々木:実はいまだにあまり固まっていません。生成AIは市場が動き過ぎていて、正直かなり特殊なステージに我々はいるように感じています。
一方で早さが重要なのは間違いないので、プロダクトを考えて、最速でぶつけて、マーケットの反応を見て、ということを村田さんとディスカッションしながら矢継ぎ早にどんどんやっている状況です。
ーーディスカッションは定例のような形で行っているのでしょうか?
村田:今は隔週ですが、会社を作る前から2023年9月に資金調達をする少し前くらいまでは毎週定例をしていました。
出資先との定例は、会社のコンディションにあわせて行っていて、週1のところもあれば、隔週のところも月1のところもあります。Spiral.AIは業績としてもチームのレベル感としても、想定以上に早いスピードで成長ができていて、やるべきことがはっきりし始めたこともあるので、今は隔週にしています。
佐々木:村田さんとの定例はすごく貴重な場で、やっぱり定例のようなステップがないと、振り返らなくなっちゃうんですよね。ただ、これが村田さんじゃなかった場合だと、振り返って、やばいなって思って、それで終わっちゃうんですけど。村田さんの場合は、やばいなと僕が思ったこと持って行って、ディスカッションさせてもらうと、方向性が見えてくるので、もうミーティング全般、本当に助かっています。
起業か、転職か
ーー最後に転職か起業か迷われている方に向けて、自身のキャリアを決めるうえでの判断ポイントをお聞きしたいです。
大庭:Professional Studioがスタートアップに特化していることもあって、ご相談いただく方で多いのは、将来的に起業を考えていますという方ですね。そういったことを言っている時点でモヤモヤしてるのと、まだ多分足りないものがあったり、自信がなかったり、今すぐに起業には踏み切れない方が多いんですよ。なのでそういう方には、これまでのキャリアを元に、起業したいのであれば足りないのはこれだから、こういう経験をするといいですよ。それで起業するタイミングになったら、いつでもいろんなVCさんを紹介しますよという話をしています。
ーー今回の佐々木さんの場合は、起業前にニューラルポケットのCTOとしてIPOを経験されていて、経験として十分という状況だったかと思うのですが、もしニューラルポケットに入られる前の佐々木さんが相談に来ていたら、どういった話をされていましたか?
大庭:研究者をやって、コンサルまでやられているので、次は事業会社で泥臭いことを経験できるフィールドを探しましょうという話をするかなと思います。その時にやりたい事業アイデアが固まり切っているような状態であれば、今回のようにVCさんに繋いだかもしれませんが、たぶんその頃の佐々木さんは起業できる自信をつけたいというフェーズだったと思うので。
また人によってその人に見合ったフィールドはあるのですが、重要なポイントとしてPL責任を持つ経験をするというのはあると思います。ファイナンスのポジションでなくても、事業責任者とかをやればPL責任を持つことになるので、そういった経験をすると、開発だけではなく予算や売上、人事を含めて、小さな企業を経営しているぐらいの感覚がつかめてくるのではないかと思います。
ーー村田さんから見て、起業に向いている方にはどういった特徴がありますか?
村田:やっぱり決めるのが得意な人ですよね。経営者になると最大の仕事は決めることなので、意思決定のスピード感がすごく重要だと思います。何か条件が提示されて初めて動くではなくて、気づいたらもう初手が出ていたという状態の人の方が絶対向いてると思います。
それと関連する部分で、リスクが取れるかどうかですね。人よりもリスク許容度が高いかどうかというのはとても大事な要素なので。
逆に自分で起業するよりも右腕に向いている人の特徴として、チーム志向の強さというのはあると思います。自分ありきではなく、チームとして結果をどう出そうとするかとか、自分にない才能をどう引き出して、自分自身にレバレッジをさらにかけようとするかみたいな。自分自身も含めて俯瞰した目を持って、社長が動く前に先んじて動けるような人は右腕に向いていると思います。
ーー村田さんのところに相談に来られた方に、起業ではなくCXOとしての転職を勧めるパターンもあるのでしょうか?
村田:あります。CXOというケースも、1人目社員というケースも、あるいは面白い特殊任務があるのでどうでしょうというケースもあります。
ーー相談をする際に、相談する側はどういった準備をしていくとよいでしょうか?
村田:一番重要なのは期日を決めることだと思います。
何かのきっかけがあったら起業するというよりも、まず自分自身で退路を断てるかどうかというのは、とくに創業期のスタートアップに飛び込もうとか、あるいは自分自身が起業しようという時にはやっぱり重要です。
スタートアップの経営幹部になりたいという人であれば、社員数は50人くらいで、シリーズBで、10億円以上集めていて、そこにVPクラスで入って、IPO時にはCXOになれたら、みたいな目線でいいと思うのですが、創業期のスタートアップにはそういったパラメーターがありません。
なので条件やきっかけではなく、大前提として今の会社をいつ辞めるのかというのを決めないと、次のキャリアの解像度も上がらないし、いいスタートも切れないだろうなと。
ーー佐々木さんには実体験を踏まえて、起業前と起業後の変化についてお伺いしたいです。
佐々木:一番の変化は久しぶりに眠れなくなったことですね。起業してから半年間くらいはなかなか寝つけず、睡眠時間も4時間くらいになって、寝汗もひどくて朝起きると布団ぐっしょりでという感じで。
最近は強制的に運動して眠れるようにしているのですが、そういう風に無理やり外的作用で眠らせるようにしなきゃいけない。ニューラルポケットのCTO時代もプレッシャーはありましたが、感じるプレッシャーは、経営者の方が全然上だと思います。今は全ての経営者を、本当にすごいなと思っています。
一方で、そのプレッシャーに見合うだけの楽しさもあるという、非常にエキサイティングな面を知れたのは、前職CTOから現在のCEOを比較した際に感じた違いですね。
ーー具体的にどういったところがエキサイティングだったのでしょう?
佐々木:やっぱりチームメンバーが増えた瞬間最高だなって思いますし、チームが成長したなと思う瞬間が一番楽しいですね。
ーー現在進行形でチームが急拡大しているところかと思いますが、Spiral.AIにハマっているのはどういった人が多いのでしょうか?
佐々木:先ほどの村田さんの話ともかぶりますが、まず意思決定の早い人ですね。
うちの会社のCOOの周さんが採用のフィルターに使っているのが、まさに「いつ入社するんですか?」というところで、産業革命が今起きているような状況なので、生成AIに漠然と興味を持っているではダメで、細かいことは脇に置いてとりあえず今入社する、そして全力を尽くして会社を良くしていくと思ってくれる人に入ってほしいと話しています。
意思決定が早くて、前向きで、生成AIの可能性を信じている人、というのがまず第一条件としてあります。
あとは自分の意見を貫き通せる人ですね。現状、生成AIはなんでもできる代わりに何やったらいいのかもう誰も見えない状態です。正直自分の頭だけで考えるのは限界があるので、私の考えにみんなが唯々諾々と従ってしまうと、逆に危険だなと思っています。
例えば、先ほどお話ししたCOOの周さんであれば、私に対して率直に「それは全然おかしい」とか言ってくるんですよ。 それで言ったからには彼は責任を持ってやり切るんですよ。
だから、まずチャレンジする。よしやろうとなったら、そこから逃げずに最後までやりきるという、このメンタリティを持った人がすごくいいなという風に思ってますね。
また最近採用している人材は右脳派を優先しています。私自身は左脳派で、右脳派の考えがよくわからないことがあるのですが、人間力みたいなところに正しく向き合ってるのは右脳派の人が多い印象はどうしてもあって、わからないんだけど大事だなと。そういう人を採用したいなと思ってます。
やっぱり人間が好きな人がいいですね。これはエンジニアも共通で、隣のエンジニアとついつい喋っちゃうような、そういう人間好きのエンジニアの方が私は好きで、黙々とやるタイプは、もしかしたらうちの会社はあんまり合わないかもしれません。
意思決定が早い、自分の意見を貫き通せる、人間が好きというところを採用においては大切にしています。
『Startup Frontier』を運営するProfessional Studioは、スタートアップに特化したキャリア支援を行っています。エージェントはスタートアップ業界経験者のみ。キャリアや転職に関する相談をご希望される方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。
取材/執筆:大場諒介