京都大学理学部からメガバンク、新規事業コンサル、そしてSaaSスタートアップの立ち上げを経て、現在は日本を代表する特化型ファンド『DRONE FUND(ドローンファンド)』で活躍する高柳氏。一見すると華やかなキャリアですが、その裏側には「0→1を作る人を支える」という一貫した哲学と緻密なキャリア戦略がありました。今回は自身の過去の経験をすべて「武器」として使いこなす高柳氏に、スタートアップで真に価値を創出するための資質とは何か、これまでの歩みを中心に語っていただきました。
【Profile】
DRONE FUND株式会社
シニアアソシエイト
高柳翔一 氏
京都大学理学部を卒業後、新卒として三井住友銀行に就職。主にソリューション提案を中心とした法人営業に従事。また本部の事務企画部に異動後は帳票のDX施策運営や事務の効率化に向けた取組を担当する。2022年、イグニション・ポイント株式会社に入社。新規事業の戦略策定・実行支援等の上流〜下流フェーズを一気通貫で経験。その後、株式会社スマートラウンドでは事業開発としての経験を積む。2025年、DRONE FUNDに参画。シニアアソシエイトとしてハンズオン支援および投資先管理を担当する。
「0→1の天才」への敬意と、メガバンクで学んだビジネスの“清濁”

――現在は特化型VCであるドローンファンドに在籍されています。具体的にどのような業務を担当されているのでしょうか。
私の業務内容は一般的なキャピタリストのイメージとは少し異なるかもしれません。通常、キャピタリストは「ソーシング」と呼ばれる投資先の開拓から入り、評価、投資実行、その後のフォローまでを一貫して行います。しかし、私の現在のメインミッションは、すでに投資が完了した「投資先への支援」に特化しています。
さらに、もう一つの重要な軸が「LP(リミテッド・パートナー)対応」です。ファンドに出資してくださっている事業会社様に対し、投資先の技術をどう活用して新規事業を作るかといった連携の橋渡しを行っています。スタートアップ側への支援と事業会社側への支援。この両輪を回すのが私の役割です。
――キャリアのスタートは三井住友銀行とのことですが、大学は京都大学の理学部で学ばれていたそうですね。
はい。理学部地球惑星科学科という、地震や台風、オーロラといった地球上の物理現象を数式で解明する学科にいました。当時はぼんやりとですが、将来は教授などのアカデミックな道に進むことをイメージしていたんです。しかし、いざ入学してみると周囲には「本物の天才」が溢れていた。二十数年かけて一握りの人間しか教授になれない、といった過酷な世界で彼らと競うのは無理だと直感したのが大きな転換点です。
ただ、私はその天才たち…私は「0から1を作る人たち」と呼んでいますが、彼らを心の底から尊敬していました。自分が「1」を作れなくても、そういう人をサポートする仕事なら自分に合っているのではないか。そう考え、金融の面から、あるいはビジネスモデルの理解を通じて支援ができるメガバンクを選びました。

――銀行員としての3年間は、どのような経験をされたのですか。
日本橋の八重洲エリアで法人営業を担当しましたが、正直、カルチャーショックの連続でした。理学部の理論的な世界とは真逆の、泥臭い水面下での交渉や根回しがモノを言う世界です。銀行が扱う融資という商品は金利の差こそあれ、基本的にはどの銀行も同じコモディティ。その中で選んでもらうには商品性よりも「担当者がいかに信頼されるか」という付加価値しかありません。
ただこの経験は本当に良かった。地場の経営者の方々と深く付き合い、正論だけでは通らないビジネスの現場を学べたことは今の私の血肉となっています。その後、本社の事務企画部に異動し、銀行内のオペレーション効率化などに携わりましたが、ここに留まるとキャリアが銀行内に固定されてしまうという危機感を抱くように。やはり現場で事業を動かしたい、0→1を支援したいという思いが強まり、転職を決意しました。
――メガバンクでの経験で、今に活きていると感じることは何でしょうか。
正論がすべてではない、という感覚ですね。何かをギブしたからといって、すぐにテイクが返ってくるわけではない。長期的な関係性の中で、いかに相手の懐に入り込むか。これは、現在の投資先支援や事業会社との連携においても全く同じことが言えます。また銀行内部の複雑な承認フローや組織の力学を実体験として知っていることは、後に大手企業の新規事業を支援する際にも大きな武器になりました。
コンサルで磨いた「型化」の技術と、スタートアップでの実力試し

――2社目のキャリアとして、新規事業に特化したコンサルティング会社を選ばれましたね。
イグニション・ポイントという会社です。当時はマッキンゼー・ボストンコンサルティングのような戦略系と、BIG4・アクセンチュア・ベイカレントのような総合系が分かれているのが一般的でしたが、その会社は新規事業に特化するとともに、戦略からサービスローンチまで一気通貫でやるという画期的なモデルを掲げていました。入社初日から地方へ飛び、クライアントの新規事業パートナーを探し歩くような、非常にエキサイティングな生活のはじまりです。
――そこではどのようなスキルを習得されたのでしょうか。
最大の収穫は「言語化」と「型化」の技術です。大手企業の新規事業開発には、タイトな期間で収益化の見込みを立てることが求められます。ExcelやPowerPointを駆使した資料作成の基礎はもちろん、企画をどう実行に移し、KPIをどう管理するかという、コンサルタントとしてのプロフェッショナルな所作を徹底的に叩き込まれました。実際に一つサービスをローンチさせ、他地域へパッケージ展開するまでを完走できたことは、大きな成功体験になりました。
――コンサルタントとして順調にキャリアを積む中で、なぜ次はSaaSスタートアップに移られたのですか。
コンサルとしてCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の設計に関わった際、VCという業界に強い興味を持ったことがきっかけです。しかし当時の自分には「スタートアップの現場感」が決定的に欠けていると感じました。スタートアップが何に悩み、どのようなプロセスで成長していくのかを内側から知らないままでは、真に質の高い投資や支援はできない。そう考え、シリーズAのスマートラウンドに飛び込みました。

――スタートアップではどのような役割を担ったのですか。
いわば“1人目の営業担当”ともいえるようなポジションでした。プロダクトはあるものの、VCやCVC向けの営業マニュアルもパイプライン管理の手法も全くない状態。そこをゼロから言語化し、動線を作っていくのが私の役割でしたね。コンサル時代と違い、自分が動かなければ何も始まらない環境です。しかし自分が頑張った分だけダイレクトに数字として形になり、受注に繋がる。その手応えはこれまでのキャリアにはない強烈なものでした。
――スタートアップでのカオスともいえる環境を通じて得たものは何でしょうか。
自分の実力がどこまで通用するかを試せたことです。前職までは大手企業の看板や組織の力に守られていた部分もありました。しかしスタートアップでは個人の力が試されます。1年ちょっとで営業組織を型化し、自分がいなくても回る仕組みを作れたことでようやく「スタートアップを理解した」という自負が持てました。この、現場を知っているというセールスポイントが今のキャピタリストとしての活動において、投資先からの信頼を得るための決定的な差別化要因になっています。
DRONE FUND参画の裏側と、レバレッジを効かせる支援の真髄

――その後、DRONE FUNDへ転職を決めた決定的な理由は?
自分のこれまでの経験である、銀行での金融知識、コンサルでの新規事業企画、スタートアップでの泥臭い営業……これらすべてを最大限にレバレッジできる場所だと思ったからです。スマートラウンドでの役割を全うし次のステップを考えたとき、単に別のスタートアップへ行くよりも多くの投資先を抱えるVCという立場の方が自分の希少価値を発揮できる、と考えました。
DRONE FUNDはドローンやエアモビリティという特定の領域において「リード投資家」として主体的に動くスタイルです。投資先との関係性が極めて深く、経営課題に真正面から向き合う必要がある。ここなら、私の多角的なバックグラウンドがあますところなく活かせると確信しました。
――実際に入社してみて、仕事のやりがいはいかがですか。
一部の投資先から「ファーストコール」をもらえることが何より嬉しいですね。資本政策や事業戦略で悩んだとき、真っ先に私に相談が来る。これはリードVCとして深く入り込んでいるからこそです。またLPである事業会社様に対しても、私の説明資料がそのまま社内の稟議に使われることや、「高柳さんの説明は現場の解像度が高い」と評価をいただく場面も多く、価値提供できているという実感が味わえる環境ですね。

――投資先支援とLP支援では、具体的にどのような動き方の違いがあるのでしょうか。
全く異なります。スタートアップ支援は、どちらかというと「メンタリング」に近いです。彼らは高い技術力と現場知識を持っていますから、私が行き過ぎた指示を出すのではなく、進むべき方向が逸れていないかを金融的な視点でチェックし、必要な言葉をかける。時にはGP(ゼネラル・パートナー)を通して、あえて厳しいことを伝えてもらうといった気遣いも必要です。これはVCが金融機関としてのガバナンスを維持するために不可欠なプロセスです。
――一方で、LPである事業会社へのアプローチは?
こちらは徹底した「情報提供」と「マッチング」です。大企業側には何が課題かをまず言語化してもらい、私自身も足を使って現場を視察しに行きます。そこで得た課題感に対し、当ファンドが抱える約90社の投資先の中から、最適な技術を持つ企業をおつなぎする。単に紹介するだけでなく、大企業の力学とスタートアップのスピード感を調整しながら、プロジェクトを形にしていく。ここでも銀行・コンサル時代の交渉や根回しの経験が生きていると感じます。
――DRONE FUNDならではのユニークな取り組みもあるとか。
半年に一度開催する“合宿”ですね。夏は投資先のCEOのみを集めて2泊3日のセッションを行い、秋にはLPの方々も合流します。ドローンやロボティクスという分野は各社が競合しつつも、業界全体を盛り上げるための連携が欠かせません。こうした場を私たちが企画し、顔の見える関係性を作ることで、単なる金銭的な出資を超えた「エコシステム」が形成されています。この熱量の中に身を置けることは、この仕事の醍醐味ですね。
プロフェッショナルな伴走と、スタートアップで成功する資質の定義

――今回の転職において、Professional Studioの大庭さんとはどのようなやり取りがあったのですか。
実は、最初はProfessional Studioという会社を詳しく知っていたわけではありませんでした。一通のダイレクトスカウトを通じて大庭さんと出会ったのがきっかけです。
これまで多くのヘッドハンターと話してきましたが、大庭さんはスタートアップやVC業界に対する知見の深さが群を抜いていました。
私が漠然と考えていた「自分の経験をレバレッジさせたい」というキャリアの方向性を即座に理解し、まだ世に出ていないDRONE FUNDの求人を提案してくれた。そのタイミングも驚異的で、DRONE FUND内で「あと一人採用しよう」と決まったわずか2週間後のことでした。
Professional Studio 大庭:高柳さんにお会いした際、金融のバックグラウンドを持ちながらスタートアップの現場で手を動かした経験がある点に非常に惹かれました。
DRONE FUNDで成果をあげるには技術への理解はもちろんですが、それ以上に「金融の規律」と「事業開発のセンス」を高いレベルで両立させる必要がある。それだけに高柳さんこそ、このポジションに相応しい方だと確信しました。

高柳: 大庭さんはドローンファンドの事業内容はもちろんカルチャーまで熟知されており、面接対策というレベルを超えた本質的な壁打ちをしてくださいました。大庭さんのような高い傾聴力と専門性を持ったパートナーがいたからこそ、迷いなく決断できたのだと思います。
――最後に、スタートアップやVC業界への転身を考えている読者へメッセージをお願いします。
スタートアップに向いているのは、端的に言えば逆境に燃えるような人だと思います。大手企業のようにルールが整っていない環境で強い向かい風にもひるむことなく、むしろその状況を楽しみながら自分のバリューを自力で作り出せる人がいいと思います。
逆に自信家の方ほど注意が必要ではないかと思います。大手の看板を外したとき、自分には何ができるのか。商談先で相手にされない屈辱を味わっても折れないタフさがあるか。
またスタートアップの先入観からは意外に思えるかもしれませんが、根回しを大切にできる人は強いです。スタートアップのプロダクトを大手企業に導入してもらうには、現場の担当者の稟議書を裏で支えるような地道で泥臭いコミュニケーションが不可欠です。そこを「古臭い」と切り捨てず、戦略的に使いこなせる人が最終的に大きな成果を出せるのだと思います。
私は、スタートアップとは人生を豊かにするための手段である、と捉えています。給与や福利厚生といった条件面だけでなく、自分の人生の密度を上げ、描きたいキャリアを最短距離で手に入れる。そのための場所として、スタートアップは最高の環境です。もちろんハードワークではありますが、その分、1年で数年分の成長を実感できる。自分の存在価値を問い続けたいプロフェッショナルにとって、これほど面白い世界はないと断言できますね。
京都大学理学部というアカデミックな出自でありながらメガバンク、新規事業コンサル、スタートアップという、一見すると振れ幅の大きいキャリアを歩んできた高柳氏。しかしその根底には「0→1を生み出す人を支える」という一貫した哲学がありました。
今回の支援においてProfessional Studioが重視したのは、高柳氏の多角的なスキルセットを単なる条件として捉えるのではなく、その真価が発揮される「特化型VC」という舞台との接点を見出すことでした。キャリアのレバレッジを最大化させるための対話。その積み重ねが一人のプロフェッショナルの可能性を、ドローン産業という次世代の最前線へと繋ぐ契機となった好例といえるでしょう。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
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