金融業界の第一線で為替トレーダーとしてキャリアをスタートし、最年少部長にまで上り詰めた後、勃興期の暗号資産業界へ。スタートアップからメガベンチャーまで渡り歩き、常に挑戦を続けてきた大塚知一氏。輝かしいキャリアを持つ彼が次なる舞台に選んだのは、これまで全く経験のない「エネルギー」業界のスタートアップ、株式会社enechainでした。
なぜ大塚氏は慣れ親しんだ金融の世界を離れ、新たな挑戦を決意したのか。その背景には、一貫したキャリア哲学と、信頼できるパートナーとの出会いがありました。今回はenechainで取引推進部のゼネラルマネージャーを務める大塚氏に、これまでの軌跡とソーシャルグッドのスタートアップにおける仕事の醍醐味について語っていただきました。
【Profile】
株式会社enechain 取引推進部 ゼネラルマネージャー
大塚 知一 氏
豪の大学卒業後、FX専業会社にて為替トレーダーとしてキャリアをスタート。トレーディング部門の責任者として取引の自動化を推進。その後、暗号資産事業を立ち上げ、事業売却。外資系コンサルティング会社での経験を挟みPMロール等豊富な実績を積む。再び、暗号資産業界に戻り、大手取引所で執行役員および事業戦略本部長兼社長室室長を兼任。メルカリでのトレーディング業務含むオペレーションの責任者を経て、2024年より株式会社enechainにて現職。
自身の市場価値を上げ続けた、挑戦と反骨心のキャリア

――まず大塚さんのこれまでのキャリアについて、原体験のあたりからお聞かせいただけますでしょうか。
大学はオーストラリアで、マーケティングとマネジメントを専攻していました。留学を選んだのは日本の大学には行きたくない、皆と同じなのは嫌だという天邪鬼な性格によるものです。もちろん入学すれば卒業が約束されるような環境ではありません。しっかりと勉強しようという意志を持って海外の大学の門を叩きました。
ちょうどその頃は堀江貴文さんをはじめとするベンチャー起業家が登場し始めた時期。私自身も漠然とですが「いつかは起業したい」というイメージは持っていましたね。
大学は単位を詰め込んで3年少しで卒業し、日本に帰国して就職活動をはじめます。しかし卒業時期が新卒一括採用のタイミングとずれていたため「キャリアのない中途」という扱いを受けることに。おかげでずいぶん苦戦しました。
そんな中、唯一受け入れてくれたのが為替トレーディングを手がけるマネーパートナーズです。完全な実力主義で年齢や社歴に関係なく、収益を上げた者のみが評価される環境でした。自分の腕一本で勝負できる世界に魅力を感じ、挑戦することに決めたのです。
――為替トレーダーという仕事は、ご自身に合っていましたか?
非常に合っていました。毎日、自分の成績が可視化されるのが面白かったですね。誰に勝ち、誰に負け、会社にどれだけ貢献したかが明確にわかる。常に緊張感が漂う厳しい環境でしたが、幸いそうしたプレッシャーを楽しめるタイプだったんです。
結果的に11年間も在籍し、最年少で部長職も経験させていただきました。成績を上げればその分だけ評価される。私が本来持っていた「反骨心」や「結果主義」という価値観にぴったりの職場でした。
――にも関わらず、なぜ転職を決意されたのでしょうか。
当時、マネーパートナーズでも取り組み始めていた「暗号資産」に大きな可能性を感じたのがきっかけです。ただ、社内で事業をスケールさせるには制約も多かった。もっと本格的にこの分野で挑戦したいと思い、社員がまだ5〜6人しかいないスタートアップに飛び込みました。そこでは事業開発から何から本当に何でもやらせてもらえる環境で、チャレンジングな経験を積むことができました。

しかし残念ながら事業は撤退となります。このタイミングで自分の武器を増やしたいと考え、アクセンチュアに転職しました。スタートアップでがむしゃらに走ってきた経験を、もっと構造的・論理的に整理したい。思考のフレームワークを身につけたい。そんな思いがあったからです。
自分に足りない部分を冷静に分析し、それを補える環境としてコンサルというステージはうってつけでした。アクセンチュアと、その後に在籍したコンサルティングファームで約2年、ビジネススキルの引き出しを増やすことに集中しました。
――コンサルティングファームで新たな武器を手にされた後、再び暗号資産の世界に戻られていますね。
はい、私の中では「リベンジ」でした。一度目は事業撤退という形で終わってしまい、何も成し遂げられていなかった。だからこそbitFlyerで事業戦略の責任者として暗号資産にもう一度挑戦しようと決めたのです。執行役員として30人ほどの組織を率い、事業自体は非常に面白く、手応えも感じていました。
しかし、さまざまな事情が重なり、結果的に1年ほどで次のステージへ進む決断をしました。振り返れば、多くのことを学び、今の自分を形作る大きな経験となりましたが、一方で、完結しきらなかったテーマもあり、それが次の挑戦への原動力となりました。
――そして3度目の正直として、メルカリでメルコインを手掛けられます。
メルコインが志向していたのは、暗号資産をより身近に、ポイントのように活用できる「ユーティリティ」としての展開でした。一方で私は、市場としての厚みを生み出し、取引を通じてダイナミズムを広げていく「トレーディング」の側面に可能性を感じていました。
目指す方向が少しずつ違うと感じる場面もあり、自分の志向に正直に、新たな挑戦を決意しました。
全くの異業種「エネルギー」で見出した、巨大なポテンシャル

――暗号資産への熱い思いをお持ちだった大塚さんですが、畑違いのエネルギー業界にどのような可能性を見出されたのでしょうか。
暗号資産の根幹技術であるブロックチェーンは、数百年単位で出てこない革新的な技術だと今でも思っています。しかし、その情熱を一旦横に置いてでも挑戦したいと思えるほど、エネルギー市場のポテンシャルは巨大でした。
きっかけはProfessional Studioの大庭さんから紹介されたことです。話を聞いてまず驚いたのは、電力という日本の重要インフラでありながら業界のDXはこれからという事実でした。「レガシーな巨大市場×未開拓のDX領域」という、これ以上ないほどのブルーオーシャンがまだ残っていたのかと。
このブラックボックス化された市場を透明化し、フェアな取引を実現できれば、社会全体に大きなメリットをもたらすことができる。その社会貢献性の高さにも強く惹かれましたね。
――転職活動では、他にも様々な業界を検討されていたそうですね。その中でenechainを選ばれた決め手は何だったのでしょうか。
複数の魅力的なオファーの中でも事業のスケールメリットという点において、enechainの可能性が最も大きいと感じたのが決め手です。すでに飽和状態にある市場でシェアを奪い合うより未成熟で巨大な市場の構造自体を変革していく方が圧倒的に大きなインパクトを生み出せる。そう考えました。
もちろん40歳を過ぎて全くの未経験業界に飛び込むことへの不安はありました。これまでの知識や経験が通用しないかもしれない。この歳で果たしてゼロから全てをキャッチアップできるのだろうか。本当にここでいいのかと、最後の最後まで悩みましたね。その葛藤を大庭さんには何度も聞いてもらいました。

Professional Studio 大庭:当時の大塚さんは、どの会社を選ぶかというよりも「enechainに行くか、行かないか」という一点で悩まれていましたね。私自身もダイナミックなキャリアチェンジの経験があったので、その気持ちはよくわかりました。
ですから年収やポジションといった条件面の話よりも「ビジネスとしてenechainはどうなのか」「この事業はスケールするのか」といった、より本質的な議論を重ねた記憶があります。ハイエンドなキャリアを歩んでこられた方の中でも特に大塚さんはその傾向を強くお持ちでしたね。
「結果」にこだわるプロフェッショナルが挑む、業界変革という長距離走
――enechainではどのようなお仕事をされているのでしょうか。
取引推進部のゼネラルマネージャーとして、電力取引のマッチングプラットフォーム『eSquare Live』の利用を推進する役割を担っています。日本の電力業界は、金融と異なり、今でもVoiceでの取引が主流なんです。それをオンライン上のプラットフォームに移行させ、取引の透明性を高め、誰もがフェアに参加できる市場を創ることが私たちのミッションです。
しかしその道のりは平坦ではありません。長い年月をかけて築かれた慣習や信頼関係があるからこそ、変化には慎重な姿勢を取られる方も少なくありません。DXという言葉が一般化してから10年以上が経ちますが、実際の業務プロセスや文化を変えていくには、やはり時間と対話の積み重ねが不可欠であると感じています。
――その高い壁に、どう向き合っていらっしゃるのでしょうか。
私の信条は「結果がすべて」です。為替トレーダー時代、感情の揺らぎがパフォーマンスに直結することを痛感しました。悔しさや喜びといった感情に左右されず、ルールに基づき機械的にトレードを繰り返す。その経験を通じて、感情をコントロールする術を身につけました。今の仕事も同じです。叩いても響かない高い壁を前に一喜一憂することはありません。

まだ目に見える結果にはなっていません。ただ、次に花を咲かせるための“根”を張っている感覚はあります。もちろん私にとってプロセスがいかに大変でも結果が出なければ意味がない。だからこそいつか来る「ブレイクスルー」の瞬間に向けて淡々と仕込みを続けているフェーズですね。
歴史が証明しているように、取引の主流がボイスからオンラインへ移行するのは時間の問題です。為替や株式、さらにはコモディティ先物の世界でも、かつては電話によるブローカー取引が当たり前でしたが、今ではほぼすべてが電子取引へと置き換わりました。電力市場においても同様の変化は必然であり、その時に備え、ゴールを見据えて走り続けています。
――職場のカルチャーはいかがですか?
環境や風土には非常に満足しています。これまで在籍してきた強い個性がぶつかりあう集団とは異なり、非常に知的で穏やかな人が多いですね。感情論ではなく、建設的でフェアな議論ができる。当たり前のようで、これができる組織は意外と少ないものです。言いたいことが気兼ねなく言える風通しの良さはenechainの魅力のひとつだと感じています。
キャリアの岐路で、本当に信頼できるパートナーとは
――今回の転職活動ではProfessional Studioを利用されました。他のエージェントとの違いは、どのような点に感じられましたか?
ひと言で表すと寄り添う姿勢が印象的でした。多くのエージェントは、どうしても営業的な側面が強く出てしまうため、年収やポジションといった条件を中心に話を進める傾向があります。
そのため、どうしても短期的な決断を促すようなコミュニケーションになりがちですね。もちろん彼らもビジネスですから一定の理解はできます。しかし大庭さんは違いました。やり取りを通じて私のキャリアや人生を本当に考えてくれていると感じられたのです。
私が未経験の業界へ挑戦することへの不安を打ち明けると、ご自身の経験も踏まえながら親身に相談に乗ってくれました。目先の条件ではなく、この事業に私がどう貢献できるか、この挑戦が私のキャリアにとってどんな意味を持つのか、という本質的な対話ができた。だからこそ私も素直に自分の悩みをすべて話すことができたのだと思います。

人生を変える可能性のある転職という大きな決断において、このような伴走者がいてくれることの価値は計り知れません。
――大庭さんは、大塚さんのご支援を振り返っていかがですか?
Professional Studio 大庭:プレッシャーこそあれど、ストレスはなかったというのが率直な感想です。大塚さんのようなハイエンドな方との対話は常に高いレベルのインプットが求められますからね。一方でビジネスの未来について深く語り合える時間は非常に楽しく心地よく、また刺激的なものでした。
そして何より嬉しいのはご入社後、enechainの経営層のみなさんから「大塚さんを紹介してくれてありがとう」という感謝の言葉をいただくことです。大塚さんが社内で活躍され、良い影響を与えていることを実感できる瞬間であり、この仕事の醍醐味を感じます。結果として、双方にとって非常に良いご縁を繋ぐことができたと自負しています。
――最後に、大塚さんご自身を振り返って、スタートアップ、特にenechainのような社会貢献性の高い事業に向いているのはどのような方だと思われますか?
「世の中を本気で変えたい」という強い意志を持っている人ですね。そして物事を構造的に捉え、どうすればもっと効率的に、もっと便利になるかを常に考えられる人。スタートアップ界隈にはすでにある程度の成功を収め、自己実現の次のステップとして「いかに他者を、そして世の中を幸せにするか」というフェーズに入っている方が多くいます。自分のためではなく、より大きな目的のために持てる能力を使いたい。そう考える方にとってenechainは最高の舞台になるはずです。
為替トレーダーとして揺るぎない実力を証明し、暗号資産というフロンティアに3度も挑み、そして今、エネルギーという社会インフラの変革に身を投じる大塚氏。そのキャリアは「反骨心」を原動力に常に困難な道を選び、自らの価値を高め続けてきた挑戦の歴史そのものです。
インタビューの最後に「サラリーマンとしての挑戦は、enechainで最後にするつもりです。次は、人間社会ではなく、自然界の最強たちと向き合うステージに進みたい。ハチやクマのように、己の本能と真剣勝負をする世界に挑む。そんな“第二の人生”を本気で考えています。」と笑顔で語ってくれました。そのユニークなビジョンは、彼の尽きることのない挑戦者精神を象徴しているようでした。
キャリアの大きな岐路において目先の条件だけでなく、自らの価値観や未来のビジョンまで深く理解し、伴走してくれるパートナーの存在がいかに重要か。大塚氏と大庭氏の関係性は、その答えを明確に示しています。Professional Studioは、これからも挑戦を続けるビジネスパーソンの最も信頼できるパートナーとして、そのキャリアを共に創造していきます。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
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