製造業の根幹を支えながらも、いまだ紙とExcelによる管理が主流の「設備保全・メンテナンス」領域。この12兆円の巨大市場にモバイルファーストのプロダクトで風穴を開けるのが、株式会社M2Xである。
総務省、ボストン コンサルティング グループを経て起業した代表取締役の岡部氏が描く、驚異的な顧客思考とプロダクトの優位性とは。さらに激化する採用市場においてメガスタートアップと競合しながらも優秀な人材を惹きつける、Professional Studioとの二人三脚の採用ストーリーに迫る。
【Profile】
株式会社M2X 代表取締役:岡部晋太郎氏
東京大学卒業後、総務省にてIT政策の企画立案を担当。その後、外資系コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループに入社し、製造業における中長期の戦略立案、DX等を担当。メンテナンスの重要性と可能性に惹かれ、2022年に株式会社M2Xを創業。
※本文中では敬称を略して記載しております。

12兆円の巨大市場に挑む。「設備保全DX」の圧倒的優位性と可能性

――まず、M2Xの事業内容とプロダクトの強みを教えてください。
岡部: 製造業の工場における「設備保全・メンテナンス業務」を効率化するクラウドシステムを開発しています。誰もが知る大手企業でも、現場の管理はいまだに紙のチェックシートとExcelで行われているのが実情です。
――大手企業でも、いまだに紙とExcelが主流なのですか。
岡部: はい、驚くほどアナログな世界が残っています。現場で膨大な記録を残していても、紙の書類や個別のExcelに埋もれ、データとして全く活用されていません。
私たちのシステムは、まず現場の作業をデジタル化して効率化を図ります。しかし本当の価値はその先です。データ蓄積によって中長期的な正しい意思決定が可能になり、最終的には工場の稼働率向上に直結する。そこまでを見据えて開発しています。
――具体的に、現場ではどのような業務がデータ化されるのでしょうか。
岡部: メンテナンスには、故障を防ぐ「予防保全」と、故障後に修理する「事後保全」があります。現状はどちらもアナログで、過去のトラブルや対処法のナレッジが共有されていません。導入後は、どの設備がいつ、どんな原因で停止し、誰がどう対応したのかがすべてデジタルで一元管理されます。
――データ化されることで、現場の働き方はどう変わりますか。
岡部: トラブル発生時に最も効果を発揮します。これまでは過去の記録や図面を見るために離れた事務所に戻る必要があり、時間を惜しんで記憶頼みで修理した結果、直らない事態が頻発していました。
M2Xなら、スマホやタブレットからその場で過去の対応履歴を検索できます。必要な図面やマニュアルも登録されているため、現場で画面を見ながら的確に対処でき、復旧時間を大幅に短縮できます。

――なぜこれまで、この領域のDXは進んでこなかったのでしょうか。
岡部: 設備保全システムは昔からありましたが、大半がパソコンベースでした。常に工場内を動き回る保全担当者の働き方に合わず、普及しなかった歴史があります。
近年、ようやく現場の通信環境が整い、モバイル端末の利用が現実的になりました。インフラが追いついたいま、モバイルに最適化した私たちのプロダクトが非常に高い評価をいただいています。
――現在の日本のメンテナンス領域において、特に顕著な課題は何ですか。
岡部: 深刻な人手不足です。通常、人口が減れば需要も減りますが、この業界は逆。人が減るほど工場の自動化・機械化が進み、管理すべき設備が増えるからです。
修理には人の手が必要なため、メンテナンス需要は残り続けます。この自動化社会への対応に加え、引退していく熟練技術者のノウハウを「形式知化」していくことも急務です。
――工場以外の領域への横展開など、今後の拡張性についてはどう考えていますか。
岡部: メンテナンスというドメイン自体が非常に広くて深いため、製造業の他業務に広げるつもりはありません。技術的には、事後・予防保全を含めたあらゆる保全業務へのAI/AIエージェントの導入による効率化にチャレンジしていきます。
――業種の壁を越えた広がりはいかがですか。
岡部: 実はデータセンターや浄水場、大手ECの物流センターなど、製造業以外からの引き合いが急増しています。
面白いのは、業種を跨いでもメンテナンスの仕事のやり方はほぼ変わらない点。製造業向けも他産業向けも製品は全く同じです。パッケージ化されたSaaSがハマりやすい領域であり、バーティカルSaaSでありながら、かなりホリゾンタルな性質を秘めています。
元官僚・コンサルが挑む「逆張り」の起業。現場主義を貫く組織のつくり方

――ファーストキャリアとして総務省の国家公務員を選ばれた理由は何ですか。
岡部: 学生時代から「社会に対して良い仕事をしたい」という想いがあり、シンプルにそれは公務員、霞が関だろうと考えて総務省に入省しました。
――総務省には約7年間在籍し、IT政策の企画立案に携わっていたそうですね。
岡部: はい。中でも強く記憶に残っているのは、携帯電話の周波数帯の混雑緩和に向けた法改正です。
当時はタクシーや消防の無線に使われていた「プラチナバンド」を移行してもらい、その費用を携帯事業者が負担する制度を設計しました。現在のスマホ高速通信の基盤に当時の仕事がつながっていると思うと、非常にスケールが大きくやりがいのある仕事でした。
――その後、ボストン コンサルティング グループ(BCG)へ転職された理由は?
岡部: 官僚の仕事はスケールが大きい反面、直接のフィードバックが得られず「手触り感」に物足りなさを感じる側面がありました。
そこで、社会的インパクトとダイレクトな手応えを求めて戦略コンサル業界へ転身。経営者と1対1で向き合い、成果次第で褒められ、結果が出せなければ厳しく叱責される。そこにはまさしく求めていた手触り感があり、気づけば6年ほど在籍していました。
――BCGでの経験の中に、起業のきっかけとなるプロジェクトがあったのですね。
岡部: 出向先の大手総合化学メーカー様で、工場の莫大な修繕費を削減するプロジェクトを推進したことです。どこを削れるか業務フローを突き詰めた際、驚くほどアナログな手法で行われている現実に直面しました。これが原体験です。
――そこからどのように起業の決断に至ったのでしょうか。
岡部: 出向後に取得した育児休暇中のことです。子どもを抱っこしながら、過去のプロジェクトを振り返っていました。
正直、その修繕費カットのプロジェクトは、個人的には必ずしも思う様な成果をあげられなかったんです。それで、なぜ現場があそこまでアナログなのか調べるうちに、海外でモバイルベースのSaaS企業が急成長しているという事実に辿りつきました。その時に「このような課題解決の在り方は、日本でも必ず必要なのでは」と確信したんです。

ただし、突発的に決めたわけではなく、コンサル時代の仲間や投資家にアイデアを話す中で「絶対に面白い」「一緒にやろう」と自然に人が集まり、起業へと至りました。
――もともと「起業家になりたい」という野望のようなものはあったのですか。
岡部: 全くありません。起業は目的ではなく、自分らしく社会に最も貢献できる手段を選択した結果に過ぎません。
最初の投資家から「こんな地味な領域、岡部さんしかやらないから出資する」と言われましたが、最高の褒め言葉です(笑)。華やかなコンサル業界から見れば目立たない領域ですが、私にとっては人生を賭ける価値のあるドメインです。
――当時、すでに国内に競合は存在したのですか。
岡部: 既存ベンダーはありましたが、昔ながらのPC画面をスマホのブラウザに押し込んだようなUI/UXでした。現場がスムーズに使えるものではなく、モバイルファーストでゼロから設計すれば圧倒的な優位性を持てると確信しました。
――現在、創業3年目です。これまで最も苦労したことは何ですか。
岡部: 圧倒的に「組織づくり」です。BCGは同質性の高い集団で、ロジカルに指示すれば組織が動きました。しかしスタートアップには多種多様な人材が集まります。彼らを1つのビジョンに向かわせるには非常に苦労しましたし、いまも試行錯誤の連続です。
――その壁を、どのように乗り越えているのでしょうか。
岡部: 泥臭く1on1を重ね、ミッションを私の言葉で丁寧に伝え続けることです。全社で共有する「Our Customer Success」というPrinciple/羅針盤のもと、顧客思考を徹底しています。
当社にはPCに向かうだけのエンジニアはいません。技術者自ら現場へ赴き、作業員の困りごとを五感で理解して開発に落とし込む。この徹底した現場主義を貫いてきたからこそ、顧客から「本当に保全業務を分かっている人間が作ったシステムだ」と絶賛されるプロダクトへ進化できたのです。
メガスタートアップとの人材争奪戦を制する、M2Xの「深み」

――ここからは、M2Xの採用戦略と、Professional Studio(以下、プロスタ)との取り組みについて伺います。プロスタを知ったきっかけは何だったのでしょうか。
岡部: 元々、代表の市川さんのFacebookを拝見し、スタートアップ特化のエージェントをされていることは認識していました。シード期は資金面の制約から見送りましたが、本格的な組織拡大フェーズに入った際、知り合いのスタートアップ経営者から「本当に親身になってくれる」と強く推されて相談したのがきっかけです。
――担当の井村さんから見たM2Xの第一印象は?
井村: 共同事業説明会が最初の接点です。岡部社長のお話を聞いた瞬間「単なる業務効率化ではない、深みと社会的意義のある事業だ」と直感的に惹かれ、現場への向き合い方などを積極的に質問しました。
岡部: あの説明会は鮮明に覚えています。当時、井村さんほど熱量を持って事業の本質を理解しようとしてくれる人はいませんでした。採用が決まりやすいメガスタートアップが他にある中で、私たちの地味で本質的な領域に関心を示してくれた姿勢を見て「この人と一緒に戦っていこう」と確信しました。
――数ある人材紹介会社の中で、プロスタならではの強みはどこにありますか。
岡部: 会社とプロダクトに対する解像度が圧倒的に高い点です。単にスキルが合う経歴書を流すのではなく、私たちの求める人物像やカルチャーに本当にフィットするかを深く見極めて紹介してくださっています。

――候補者を推薦する際、井村さんが特に意識している部分は?
井村: 最も重視しているのはカルチャーマッチ、具体的には顧客志向の高さです。自身の数字だけでなく「お客様のためにどう泥臭く動いたか」を熱く語れる方を推薦しています。また、M2X様は選考で候補者に真摯に向き合ってくださるため、面接を重ねるごとに志望度が高まっていく。私たちも自信を持ってご紹介できる企業です。
――プロスタ経由で決定した、女性リーダーの採用エピソードが非常にドラマチックだったそうですね。
岡部: まさに事業成長を数段引き上げてくれるコア人材になり得る優秀な方を採用できました。圧倒的な実績とエネルギーを兼ね備え、インサイドセールスの立ち上げからマーケ、営業の仕組み化まで全般を任せられる存在として一目で惚れ込みました。ただ、それだけに市場での競争は熾烈を極めました。
――最終的に、なぜM2Xが選ばれたのでしょうか。
井村: 実は、私の目線では、最初から最後まで彼女の第一志望は一貫してM2X様でした。「自分が本当に好きだと思えるプロダクト、心から応援したい企業を支えたい」という強い軸を持っていたんです。岡部代表の人柄や「全員がフラットに一丸となって顧客に向き合う」というカルチャーに心が完全に掴まれていました。とはいえ、競合も条件面や華やかなビジョンで猛追してきましたから、オファー面談の瞬間までどこに決めるかはわかりませんでした。
徹底した顧客思考が仕掛けた、熱狂を生むクロージング

――激しい争奪戦の中で最終的に彼女を口説き落とした「決定打」は何だったのでしょうか。
岡部: 選考中の雑談で、彼女が当社の顧客である化粧品メーカーの大ファンだと知りました。そこで、単にBtoBのシステムとして説明するのではなく、「M2Xは、あなたが大好きな化粧品が毎日滞りなく生産され、全国へ届くためのインフラを支えている」とストーリーで伝えたのです。さらに、オファー面談の当日にはサプライズも用意しました。
――サプライズとは?
岡部: 当社のシステムを導入しているその工場の「特別見学チケット」をデザイナーにお願いしてオリジナルで作ったんです。印刷ロットの関係で社内に50枚ほど余っていますが(笑)。オファー面談の最後に「僕たちと一緒にブランドの裏側を支えよう」と手渡しました。
井村: その話を聞いた時は鳥肌が立ちました。彼女はM2X様の徹底した候補者への向き合い方と顧客思考の強さに心を動かされ、面談で感動して涙を流されたそうです。まさに「他者のために汗をかけるカルチャー」が採用の局面でも遺憾なく発揮された瞬間でした。
――市川さんは、M2Xが優秀な人材を惹きつける理由をどのように分析されますか。
市川: M2X様には「他己心(たこしん)が強い人」を惹きつける圧倒的な引力があります。たとえ黒子でも誰かの役に立ちたいという、利他主義的な優秀層が最も輝けるカルチャーです。
もうひとつは、候補者側の「ビジネスリテラシー」が試される点。人手不足というマクロの逆風を逆手に取り、設備保全という12兆円の未開拓市場で確実にグロースしていく。このビジネスモデルの構造的な美しさに気づける知性を持った人が、本当の面白さを見抜いて飛び込んでくる。いま最もエキサイティングなスタートアップの1社だと思います。
実際に弊社で直近ご支援した候補者も名だたる有名スタートアップから複数オファーを勝ち取っていましたが、カルチャーと成長性を決め手に同社を選択されました。

――オフィスには導入企業の工場で生産されたさまざまな商品が並んでいるそうですね。
岡部: はい。大手メーカーの菓子や飲料など、クライアント様が製造する身近な商品を並べています。地味なBtoB SaaSですが、その先にある生活者の日常、つまりBtoBtoCの繋がりを常に意識するためです。自分たちの仕事が定番商品を当たり前に供給し続けることに貢献している誇りを、チーム全員で共有しています。
――プロダクトがもたらした導入効果の事例があれば教えてください。
岡部: ある工場では「稼働率10%以上向上」という成果が出ました。機械の突発停止を防ぐことで予定通り生産が終了し、無駄な残業代の削減や原材料の破棄ロスゼロを実現しています。
もう一つ、現場の指摘で気づいたのが「工場の光熱費削減」です。工場はライン停止中も機械に通電し続けるため膨大な電力を消費します。M2Xによって現場が回り続けることで無駄な通電時間が減り、数千万円規模の光熱費カットに繋がった事例もあります。生産性向上だけでなく、省エネという経営課題、さらに社会課題にまで直結しているのです。
――最後に、M2Xが描く今後のビジョンと現在求めている人材について教えてください。
岡部: 目指すのは、ゼロダウンタイム(設備停止ゼロ)の世界です。製造業に閉じず、あらゆる自動化設備が滑らかに動き続けるプラットフォームを構築し、将来は東南アジアなどグローバルへも進出します。
そのために必要なのが、最重要課題であるエンタープライズ市場の開拓です。各産業のトップ3に入る企業への導入を加速させており、直近では大手自動車メーカーの九州支社での導入が決定し、強力な足がかりができました。
この巨大市場を自らの手で切り拓いていける仲間を求めています。地味でも社会に不可欠な基盤を作る。誰かのために泥臭く本気で汗をかける、そんな熱い想いを持った方からの挑戦を心からお待ちしています。
今回の取材を通じて感じたのは、驚くほどの「泥臭い他己心」だ。
設備保全という一見地味な領域を、日本のものづくりを支える誇り高きインフラとして再定義し、たった一人のオファー面談のために特製チケットまで自作する。効率や論理が優先されがちなSaaSの世界において、彼らが放つ「顧客へのサービス精神」という名の非効率なまでのこだわり。それこそが、実はメガベンチャーをも凌駕して優秀な人材を惹きつけ、デジタル化が最も苦手とする現場の「信頼」というラストワンマイルを埋めているのではないだろうか。

最後まで読んで頂きありがとうございました。
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